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まつり一族《ホラーテラーさん》 r+7000

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僕の生まれ育った村は、すでに市町村統合で地図の上からは消えてしまった。しかし、この話は、まだその場所が「村」と呼ばれていた頃の記憶だ。

小学校6年生の夏。あの日は友達のマサオと一緒に、村の上に広がる山へ探検に出かけた。マサオは村長の孫で、好奇心の塊のようなやつだった。「立ち入り禁止」の看板を見ると、「あとで入ろうぜ」と悪びれもせずに言う。そんなマサオに惹かれて、僕はいつも彼の後ろをついて回っていた。

その日もマサオの計画に乗っかって、二人で山を目指した。「コンクリートの道なんか面白くない。けもの道って知っとるか?熊とか狸とか危険な動物が通る道のことや。今日はそこを行こうや」と、目を輝かせて言う彼を見て、僕は少し不安になりながらも「うん」と頷いた。

山の入り口に着くなり、マサオはぼろぼろの靴を脱ぎ捨てた。もちろん靴下なんて履いていない。

「マサオ、裸足で登るんか?危ないで、怪我するぞ」
「お前、車も通らんのに赤信号守るんか?」と、彼は軽く鼻で笑った。
じいちゃんから聞いたらしい「危機管理能力が育たんぞ」という言葉を引用して、自信たっぷりに言い放つ。僕には「ききかんり」の意味もわからなかったけど、彼の言うことなら正しいような気がしてしまう。

「僕も裸足になるわ」と答えると、靴下を破り、腕に巻いて「完全装備や」と笑って見せた。
「かっこいいな!今度僕もやるわ」とマサオが笑い返す。

二人で木々が生い茂る脇道に足を踏み入れる。最初は人が通る道だったが、やがてマサオが「こっちや」と指さした方に進むと、周囲は背の高い木々に囲まれ、地面には獣道らしき足跡が現れた。

「ほれ、けものが通った跡や」
「ほんまや。これがけもの道か!」と僕も興奮する。

けもの道に踏み入れた瞬間、僕の胸には恐怖と好奇心が入り混じった。昼間だというのに森の中は薄暗く、母ちゃんが「熊避けに鈴を持っていけ」と言っていたことを思い出したが、言い出すのはやめた。きっとまた「お前は」とマサオに呆れられるだけだろうと思ったからだ。

道は意外と整備されているようで、進むうちに歩きやすくなっていった。「けもの道もそろそろ終わりか?」と僕が尋ねると、マサオも「そうかもしれん」と首をかしげた。その先に現れたのは、見たこともない石段だった。

「競争じゃ!先に上に着いた方が山のボスや!」
マサオが叫びながら駆け上がる。慌てて後を追ったが、彼には勝てるわけがなかった。
石段を登りきった先には、ツタに覆われた小さな神社があった。入口の鳥居は半ば植物に飲み込まれ、左右に朽ちた木造の小屋があり、正面には色あせた本殿が佇んでいる。

「神社や!こんなん、この村にあったか?」
「僕も知らん。じいちゃんも知らんやろな。誰も知らんってことやな。秘密基地にぴったりや!」

マサオとハイタッチを交わし、僕たちは本殿の階段を上った。

本殿は木の格子で囲まれ、入口には錆びついた南京錠がかかっていた。しかし、マサオは「神様なんかおらん!」と豪語し、錠を力任せに引きちぎった。

扉を開けると、中は真っ暗だった。お日様の光は届かない。マサオは躊躇なく一歩踏み出したが、僕は怖くて彼の後ろにくっついて歩くしかなかった。

「奥に木の箱があるで」とマサオが指さした先に、黒く塗られた箱がぽつんと置かれていた。

「穴が開いてる。手ぇ入れてみるか?」
「いやや。怖いわ」と僕が首を振ると、マサオはその箱を抱えて部屋を飛び出した。

本殿を抜け、日光の下で箱を確認すると、黒い箱にはちょうど片手が入るほどの穴が開いていた。中を覗いても暗くて何も見えない。「何か入っとる」とマサオは上下に振り、カシャカシャと音を鳴らす。

「どっちが手ぇ入れるんか?」
「ジャンケンで決めるしかないやろ」と言うマサオにしぶしぶ付き合うが、負けてしまった。

恐る恐る箱に手を入れると、中から取り出したのは墨で名字が書かれた木の板だった。「山口」や「前田」など、他にもたくさんの板が入っており、僕たちは交互に板を取り出して並べた。

最後の一枚を取り出すと、それは真っ黒な板で「おまつり」とだけ書かれていた。

「なんや、これは?」
「わからん」と呟いたきり、僕たちはその言葉の意味を考えようとしなかった。ただ、何とも言えない不安が胸をよぎっていた。

「今日はここまでにしよう」とマサオが言い出し、僕たちは帰ることにしたが、その途中でマサオが突然こう言った。

「なぁ、お前の手ぇ、食わせてくれんか?」

一瞬、冗談かと思ったが、マサオの目は真剣だった。そして僕もなぜか「いいで」と答えていた。

気がつけば、マサオは僕の手に噛みついていた。痛みで正気に戻った僕は、彼を突き飛ばし、石段から転げ落とした。

「なんでや。僕はおまつりやぞ。手ぇくらいええやろ!」

涙を流すマサオを見て、僕は彼をなんとか元に戻そうと必死に叫んだ。

「マサオ!!」

その声で彼も正気に戻った。マサオは涙ながらに「ごめんな」と言ったが、僕たちは二人とも手足から血を流し、呆然と神社を後にした。

村に戻る道すがら、マサオと僕はお互いに傷を労りながら話をした。

「マサオ、なんやったんや、さっきのは」
「僕にもわからん。ただ、あの時は自分じゃなかった気がする」

帰宅後、僕は母ちゃんに手当てを受けながら、神社のことを話そうか迷ったが、やめておいた。代わりにマサオの母親が翌朝家を訪れ、彼が入院していると告げた。

病院で会ったマサオは、頭に包帯を巻いており、真剣な表情で僕を呼び出した理由を語った。

「あの夜、僕は自分の胸を切ったんや。心臓がどうしても食べたくなって、包丁を持ち出したんや。でも切った痛みで正気に戻った」

その言葉に僕は驚愕したが、同時に彼がまだマサオでいてくれたことに安堵した。

退院後のマサオと僕は、再び神社に戻る決意を固めた。

出しっぱなしにしていた黒い箱を確認しに行かなければならないと感じたからだ。しかし神社に着くと、箱も木の板も消え失せていた。本殿の中に戻されている可能性を考えた二人は、恐怖を押し殺しながら暗い本殿に足を踏み入れた。

案の定、黒い箱は元の場所にあった。僕たちは一目見るなり、本能的な恐怖に駆られて逃げ出した。

家に帰ると、母ちゃんが「おまつり」の昔話を語り始めた。それは、人の死体を食べ、特に心臓を最も美味とする「まつりの一族」の話だった。村人たちは死者を食らうことで活力を得たが、鬼の一族が現れてその風習を止めさせた。やがて鬼の一族は、村人を恐怖で支配し、黒い箱「おまつり」を使って村人を選び出して喰らったという。

母ちゃんの話が事実かはわからない。ただ、僕とマサオに起きたことと奇妙に符合する部分が多いことに、背筋が凍る思いがした。

マサオは「もうこれ以上は調べたくない」と言った。僕も同じ気持ちだった。恐怖と不安を抱えたまま、神社の真相を解き明かすことはできず、二人でその山に近づくことは二度となかった。

年月が経ち、大人になった今でも、僕たちは酒を酌み交わしながら時折この話をする。しかし、結論はいつも同じだ。「あの神社には二度と近づかない」。

それでもマサオとは親友だ。僕たちはこの不思議な体験を共有する唯一の仲間であり続けるだろう。

(了)

[出典:原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「とくめいさん」2011/01/21 17:13]

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