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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

残り時間は戻ったが nc+

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中学一年の最初の定期テストだった。

教室の空気は独特だった。鉛筆の芯が紙を擦る音と、鼻をすする音と、窓の外から聞こえる体育の笛の音が、奇妙に混ざり合っていた。緊張しているはずなのに、どこか現実感が薄い。入学してまだ二か月、制服も教室も、自分の居場所だという実感が追いついていなかった。

一時間目は社会だった。地理と歴史が混じった範囲で、暗記中心だと先生は言っていた。問題用紙が配られ、開始の合図が出る。

最初の数問で拍子抜けした。見覚えのある問題ばかりだった。教科書の太字、ノートに線を引いた部分、家で母に確認された年号。鉛筆は止まらず、むしろ急かされるように進んでいった。

気づけば、最後の問題まで辿り着いていた。

時計を見ると、まだ二十分以上残っている。こんなことは初めてだった。見直しをするが、答えは揺るがない。どこをどう読んでも、間違っている気がしなかった。

暇になった。

手持ち無沙汰で、視線が教室を漂う。前の席の女子は眉間に皺を寄せ、斜め前の男子は貧乏ゆすりをしている。窓際の席の誰かは、すでにうつ伏せになっていた。教師は教卓の横で腕を組み、黒板の方を見ている。

ぼんやりしていると、時間の感覚が曖昧になった。時計を見たはずなのに、針の位置が思い出せない。

もう一度、顔を上げて黒板横の時計を見る。

終了まで、あと三分。

心臓が跳ねた。

一気に血が引く感覚があった。さっき見たときは、確かに二十分以上あった。だが、針は容赦なく終わりに向かっている。教室の音が遠のいた。

何かおかしい。

無意識に問題用紙をひっくり返した。その瞬間、頭の中が真っ白になった。

裏面があった。

しかも、半分以上がびっしりと問題で埋まっている。文字の配置も、問題番号の振り方も、表と同じ形式だ。なぜ今まで気づかなかったのか分からない。最初から、そこにあったはずなのに。

鉛筆を持つ手が震えた。

間に合わない。

そう思った瞬間、視界が歪んだ。教室全体が、水の中に沈んだみたいに揺れた。机も人も、輪郭が溶ける。

思わず目をこすり、顔を上げる。

時計が目に入った。

終了まで、あと二十三分。

意味が分からなかった。何度見ても、針は戻っている。さっきまで三分だったはずなのに。心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。

夢だと思った。

だが、問題用紙は裏返ったままだ。裏の問題も、確かに存在している。深呼吸をして、考えるのをやめた。理屈は後だ。とにかく書くしかない。

裏の問題に取りかかる。だが、内容が頭に入ってこない。文章を読んでいるのに、意味が掴めない。見たことのある単語のはずなのに、どこか噛み合わない。

それでも、鉛筆は動いていた。

自分で書いている感覚がない。考える前に、手が勝手に進む。文字を書いているはずなのに、何を書いたのか覚えていない。ただ、空白が埋まっていく。

途中で時計を見る勇気はなかった。

終了の合図が鳴り、教師の声が響いた。反射的に鉛筆を置き、用紙を提出する。席を立つとき、足元がふらついた。

テストが終わったあと、裏のことを誰かに話そうかと思った。でも、教室の誰もそんな話題を出さない。友人たちは点数の予想や、難しかった問題の話をしている。

裏の話など、存在しないかのようだった。

数日後、テストが返却された。

六十二点。

微妙な点数だった。悪くはないが、良くもない。納得できない気持ちが先に立った。あれだけ書いたはずなのに、この点数なのか。

何となく、裏を見た。

解答欄は、すべて埋まっていた。

だが、そこに書かれている文字を見て、息が止まった。

読めない。

アルファベットでもなく、漢字でもない。線と曲線が絡み合った、見たことのない文字列だった。ただの落書きとも違う。一定の規則性があるように見えるのに、意味が掴めない。

それなのに、妙な感覚があった。

知っている。

そう思った。

読めないはずなのに、どこかで見たことがある気がする。いや、見たことがあるどころか、ずっと前から知っていたような、そんな錯覚。

ぞっとした。

自分で書いた記憶はない。だが、他人が書いたとも思えない。筆圧も、癖も、確かに自分のものだった。

教師に聞く勇気はなかった。

それ以来、テストの裏面を見るのが怖くなった。用紙を受け取るたびに、無意識に表だけを確認し、裏は見ないようにしている。

今でも、あの文字が何だったのか分からない。

ただ一つだけ、はっきりしていることがある。

もしあのとき、残り時間が戻らなかったら。

もし裏の問題に、手を伸ばさなかったら。

あの文字は、どこに行っていたのか。

そして次に現れるのは、本当に紙の上だけなのか。

[出典:241 :本当にあった怖い名無し:2018/06/02(土) 18:39:35.84 ID:+vCjwbSG0.net]

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