十九年前、クラスの女の子・加代子が家出したことで大騒ぎになったことがあった。
加代子は優等生で、俺も仲が良かったから、心配になって学校帰りに友達と一緒に探し回った。
手がかりを探して彼女の知り合いに話を聞いて回るうちに、近所に住む幼なじみの先輩も同時に姿を消していることがわかった。近所では、駆け落ちだとか家出だとか軽く噂されていたが、周囲はあまり深刻に考えていない様子だった。しかし、加代子はそんな衝動的に家出するようなタイプじゃない。何かあったなら必ず誰かに知らせるはずだし、同行している先輩についても、友人たちは「加代子に家出をそそのかすような人間じゃない」と口を揃えて言っていた。それで俺たちは、二人の知り合いや足取りを徹底的に追った。
行方不明になって五日ほど経った頃、加代子の家で「追いかけられている」というメモが見つかった。それをきっかけに、警察や消防団が慌ただしく動き出し、俺たちも不安で泣きそうになっていた。しかし、加代子のお母さんはそのメモを見て「おかしい」と呟いた。そして、警察に話せば調査が止まるかもしれないからと、俺たちだけにその理由を教えてくれた。
メモは確かに加代子の筆跡で間違いなかった。しかし、それが置かれていたのは加代子のお母さんがずっと座っていた台所のテーブルの上だった。お母さんは、トイレに行ったり仮眠を取った程度でずっとそこにいたため、そんな目立つ場所にメモが置かれていたら気づかないはずがないと主張した。お母さんは「加代子が一度家に戻ってきて、メモを置いていったに違いない」と言い、さらに「彼女が近くに隠れているのかもしれない」と考え、俺たちと一緒に家中を探した。屋根裏から押し入れ、床下に至るまで調べたが、結局何も見つからなかった。
その後、メモに記されていた逃げ先と思われる場所も探しに行ったが、そこでも成果はなかった。
そして、奇妙な出来事が起きたのは休み明けの授業中だった。先生が黒板に板書して「ここを書き写して」と言った瞬間、黒板に書かれていた文字に赤いチョークで「もう一度警察に行きます。だめならメモします。加代子」といった内容が重なるように現れたのだ。クラス全体が呆然とした。いたずらかとも言われたが、赤い文字は先生が書いた白いチョークの下にあった。先生も「加代子の字だな」と呟いたきり、それ以上何も言わなかった。
この出来事で、クラスでは加代子が亡くなったのではという噂が広がり、重苦しい空気が漂った。一緒に消えた先輩が犯人ではないかという憶測まで飛び交う中、先輩の友達の家のポストに先輩の字で「二人とも無事」と記されたメモが入っていたことが判明。それでも、周囲では「自作自演のいたずらじゃないか」という風潮が強まり始めた頃、ついに警察が二人を保護したというニュースが流れた。
その翌日、学校帰りに加代子に会えるかと思い、彼女の家に寄ったが、疲れて寝ていると言われた。一緒にいた先輩は加代子の母親に謝り続けていて、詳細はわからないが「家出じゃない」と曖昧に話を濁された。
その帰り道、俺が自転車を押して歩いていると、空っぽのはずの前カゴに紙切れが入っているのに気づいた。それは加代子のメモで、いくつかの場所が点々と記されていた。先輩は「ポストに入れればよかったのに」と言ったが、あの時点でメモがカゴに入っていたとはどうしても思えない。加代子の家を出るとき、おばあちゃんからもらったお菓子をカゴに入れようか迷ったほどだから、紙切れが入っていれば絶対に気づいていたはずだ。
加代子や先輩に詳しい話を聞いても、二人とも「家出だよ」と曖昧な答えを繰り返すばかりだった。話の内容が食い違っていることから、どちらも適当に誤魔化しているのだとわかった。
それでも、あの黒板の文字だけは今でも理解できない。不思議で不可解な出来事だったが、みんなその話題に触れるのを避けていた。同窓会でも誰も話題にしないし、俺もいつの間にか考えないようにしていた。
しかし、最近ニュースで行方不明の女子高生が神社で発見されたという報道を見て、当時のことが鮮明に思い出された。加代子は「あのメモは確かに自分が書いた」と言っていた。けれども、それがどうやって黒板や自転車のカゴに現れたのかは今でも謎のままだ。
科学的に説明がつくことなのか、それとも全く別の何かなのか。あの時の記憶は、今も俺の中で消えずに残っている。
(了)
[出典:826 :本当にあった怖い名無し:2013/09/29(日) 19:45:45.79 ID:8IMslosU0]