俺は、母親と喧嘩して家を飛び出した。
理由は……
俺が朝七時からずっとテレビゲームしていたら
母親があきらかに怒りまくっているような足音を家全体に響かせながら部屋まで入ってきてこう言った。
「ゲームをいつまでしてるの?中三なのに手伝い一つもしないで……今年受験じゃないの!?勉強しなさい!!いい加減にしなさいよ!!夏休みになって気ぃ抜けすぎ!!」
母親は溜めてた物を一気に吐き出した感じで言い切った後、俺を睨みつけた。
母親が久しぶりにキレたので少しびっくりしたが、俺も反抗した。
「はぁ!?……ってかいきなり部屋入ってくんなよ!!入る時ノックしてってあれほど言ったじゃん!!お母さんに言われなくても勉強してるけど?手伝いなんか勉強で忙しいからでき……」
言い終わる前に母親が言い返してきた。
母親は完全にキレていた。
血管がいまにもぶち切れそうに出ていて顔は真っ赤、しかも最後には涙目になる始末。
さすがに俺もキレてしまった。
「うるせーよ!!お母さんも言った事守らねぇくせに俺に口出せるのかよ!!こんな家にいるなら野宿した方がマシだよ!!外は自由だしな!!」
俺はそういうと携帯と財布をGパンのポッケに入れ、タンクトップに薄い半袖の上着を来て家を出る準備をした。
母親はその場に座りこみ泣き出した。あきらかに行かせないように道を塞いでいた。
「どけよ!!」
俺はそう言って、母親を突き飛ばした。
そして、最後にこう言い放った。
「二度と帰ってこないから!!こんな家なんかに……お父さんが死んでお母さんは変わったよな!!お姉ちゃんは20歳で脱ニートして一生懸命働いてるかと思ったら借金作って行方不明になるし……こんな母親もった俺は不幸だよ。家族崩壊だな」
俺は靴を履き、家を飛び出した。
家を出ても母親の泣き声が聞こえた。俺は苛々しながらとにかく走った。
一時間過ぎただろうか。携帯の時計をみると、夕方の六時だった。
夏だったため、まだまだ明るかった。
よくみると、小さな公園に来ていた。ブランコと滑り台と砂場だけの殺風景な公園だった。
こんな公園初めてみたな……
俺はとりあえず苛々感を押さえたかったので二つしかないブランコの一つに乗り深呼吸した。
「くそっ…!!」
俺は唾を遠くに飛ばした。そして、俯いてじっとしてた。
なんかゲームのしすぎで目が疲れたのか分からないけど睡魔に襲われた。
俺は必死で睡魔に抵抗した。
「ふう…」
睡魔が通り過ぎた後、さっき見た時は空いていた横のブランコをふと見た。
「…!?」
なんと女の人がブランコに座って空を見上げていた。
「いつの間にいるんだ?」
そう思いながら女の人を見つめてたら女の人が気付いて、こっちを見た。
女の人は「こんにちは」と言ってきた。
俺は急に言われたのと恥ずかしさのあまり、
「あぁ…」と言ってしまった。
女の人は視線を空に戻した。
俺はひたすら女の人を見つめた。
高校生ぐらいだろうか?顔はかなり可愛かった。
さらっとしたブラックロングヘアに薄い茶色が所々見受けられた。
身長は、165ぐらいかな?
俺とあまり変わらなくて足もきれいでモデルさんみたいだった。
目はカラコンで茶色。服は黄色いTシャツにGパンといたって普通の格好だった。
でもなんか輝いていた。俺は人間観察を終えた後、またうつむいた。
まだ苛々感はおさまらずストレスになりそうだった。
女の人が来て五分ぐらいたったのだろうか……
女の人が話しかけてきた。
「何故ここにいるの?」
俺は「親と喧嘩して家出した」と……
女の人は質問また質問してきた。
「今何年生?中学生?」
「うん。中三」
「そうなんだ…私高二」
「へぇ……君って可愛いね」
俺は何故かそう言ってしまった。やっぱあまりにも可愛いからだろうか。口からこぼれた。
「あ、ありがと。名前何て言うの?」
「れいじだよ。君は?」
「レイラだよ」
「そっか……」
二人の間に沈黙が続いた……
俺はある疑問をいだいた。
「いつからブランコの俺の横にいたのか。俯いてても普通は気付くはずなのに」
と思っていたら、女の人はブランコから立ち上がりこう言った。
「ねぇ、れいじ君。ちょっと散歩に付き合って。良い?」
思春期真っ盛りの俺はドキッとした。
「良いよ。ど、どうせ暇だし」
「ありがと」
俺も立ち上がり、一緒に散歩することにした。
女の人と一緒になって歩くのは初めてだった。
俺はレイラさんといろいろ話した。
母親との喧嘩の理由や母親の悪口。
レイラさんに今の苛々感を全て吐き出した。
なんだかスッキリした。レイラさんはニコニコしながら聞いてくれた。
しかしレイラさんは、自分の事は決して話さなかった。
まぁ俺が一方的に話していたから無理だろう。
二人は三〇分ぐらい散歩した。
気が付いたら川が流れている場所にいた。
すると、レイラさんは言った。
「ここが……最期の場所だったな……」
俺はうまく聞き取れなかった。
「えっ?」
レイラさんは
「いや……何でももないよ」
何か悲しそうだった。
俺はこんな空気は苦手だったので、「ジュース買ってくる」と言って、100メ-トル先の自動販売機まで走りだした。
俺はふと携帯が気になったので、見たらお母さんが電話を十五件もかけてきていた。
サイレントモ-ドにしてたら気付かなかったのだろう。
俺はお母さんに電話した。出るのに、二秒もかからなかった。
「れ…れいじ……ど…何処にいるの?」
お母さんはまだ泣き止んでなかった。
「何処に居ても勝手だろ?もうかけるなよ」と言って、電源を切った。
またイライラ感が募った。
俺はお金を自販機に入れているときに、レイラさんが言った聞き取れにくかった言葉が気になった
「たしか……最後の場所って言ってたな」
俺は全然理解できなかった。レイラさん悲しそうな顔してたな。
俺はレイラさんのあの顔が何を意味してたのかは分からない。
レイラさんがいる場所までコカコーラとお茶を一本持って行った。
当然に俺はコカコーラ。レイラさんはお茶。二人は一緒に座り川を眺めた。
川は深そうだった。丸みを帯びた石が絨毯のように広がっていた。
俺達は一息ついた。なんだか、心が癒されそうだった。
ふとレイラさんの体からそよ風に乗って甘い匂いがした。
すると、レイラさんいきなり無言のまま俺の手を握り、ぎゅっと握りしめた……
俺はさっきも言ったように思春期真っ盛り!!女子高生のお姉さんにいきなりそういう事されたのでドキドキした。興奮もした。夏なので汗がにじんできた。
それを感じとったのか、レイラさんは立ち上がり、俺の手を引っ張ってこう言った。
「川で遊ぼう…」
俺は当たり前の如く……
「うん!!」
と言って立ち上がる。
レイラさんは川に入る前にこう言った。
「意外に深いから気をつけてね」と。
俺とレイラさんは川に入ったレイラさんの言う通り、川は深かった。
でもふとももの所ぐらいだったのでそこまで深いとは言えなかった。
「冷たいなぁ…」
俺が独り言いってると……
「ほらっ」
レイラさんが水をかけてきた。
俺も水をかけかえした。レイラさんは、キャッと叫んでまたかけてきた。
この時は、いつまでも忘れないだろう。とても楽しかったし、俺達は幼稚園児みたいにはしゃいだ。
10分ぐらい遊んだだろうか……
レイラさんが休憩しよっと言ったので休憩した。
コカコーラを手に取り、レイラさんとは反対を向いて、飲もうとするとレイラさんは言った。
「れいじ君…今日はありがと…楽しかったぁ。あっ、親と仲直りしてね約束ね」
「うん楽しかった。分かった分かった仲直りするよ」
「れいじ君…」
俺は振り向いた。レイラさんはいきなり俺の唇にキスをしてきた。
俺は顔が一気に赤らめいた。結構長かったようだった。
レイラさんの唇は柔らかくて薄いお茶の味がした。
キスを終えた後レイラさんは最期にこう言った。
「れいじ君…好きになっちゃった…生前にれいじ君に会っとけば……バイバイ」
「せ…生前?どういう意…」
言いかけてる時にレイラさんはすっと消えて行った……
「……」
残ったのはレイラさんの飲みかけのお茶だった。
「れ…レイラさん?」
俺はパニックになった。目の前で人が消えたのだ。
何故レイラさんは消えたのだろう……まさか幽霊?この場所は何か関係あるのだろうか。
俺はとりあえずコカコーラとお茶を手に取り、お母さんに電話をかけ、約束通りに仲直りし、家でこの川について調べた……
すると…俺は凍り付いた……
今から二年前の事。この川で高校二年生の愛河麗羅さんが同級生で彼氏の桐山和也に頭を水の中に押し付けられ窒息死し、麗羅さんの遺体を公園の砂場に埋めた。その後に和也被告は自主しにきた。
との事。
麗羅さんの顔写真が載っていた。
さっきまで一緒に散歩し、川で遊んだレイラさんと全く一緒だった。
「麗羅さんに会いたい」
この思いが頭を横切った。
俺は家を飛び出し、川まで自転車を乞いでいった。
着いたときは、夕暮れの太陽が川を茜色に染めていた。
川には麗羅さんはいなかった。
俺は麗羅さんとの別れまでを思い出す。
確かに、不可解な点が多かったかもしれない。
いきなりブランコに現れた時も普通は気付くはずだった。
川では最期とか言ってた。
もう麗羅さんに会えないかと思うと、涙が出てきた。
俺は麗羅さんが安らかに眠れるように祈った。
帰ろうと自転車まで歩いていたら、ふと麗羅さんの甘い匂いがそよ風に乗ってきた。
俺は川の方を見た……
一瞬、麗羅さんの姿が見えたような気がした。
(了)