伊代は6歳の小さな女の子で、家族を心から愛していた。
彼女にとって家族は全てだった。
日々の生活の中で、伊代の一番の楽しみはパパと遊ぶことだった。
最近、パパは仕事から早く帰ってきて、彼女とたくさんの時間を過ごしてくれるようになっていた。
毎日学校から帰ると、彼女は家の中でパパの姿を探し、一緒に遊ぶことを心待ちにしていた。
伊代の幸せは、家族と一緒に過ごす時間によってさらに深まった。
最近では、一緒に洗濯物を畳んだり、家の中の小さな仕事を手伝ったりするのが日課になっていた。
特に洗濯物を畳むことが伊代のお気に入りだった。
彼女はその仕事を一生懸命にこなし、自分が役に立っていると感じていた。
部屋に干された洗濯物を取り入れ、きちんと畳んで、押し入れにしまう。
伊代はこの仕事を毎日楽しみにしていた。
しかし、ある日学校から帰ってくると、家には誰もいなかった。
パパもママも不在で、家は静まり返っていた。
伊代は少し寂しく感じたが、時間を潰すために洗濯物を畳むことにした。
部屋に干されていた洗濯物を一つずつ手際よく畳んでいったが、パパとママのズボンだけはどうしても取れなかった。
どれだけ引っ張っても、ズボンは動かない。
付いていた靴下だけを取り除いたが、ズボンはそのままぶら下がっていた。
伊代はママにそのことを伝えようと思ったが、彼女はまだ帰ってこなかった。
家には静けさが広がり、伊代は一人で過ごす時間が増えていった。
彼女はパパとママの帰りを待ちわびながら、お腹が空いてきたことに気づいた。
伊代は3日間、何も食べていなかったのだ。
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解説
この物語は、表面的には無邪気な子供の日常を描いているように見えますが、その裏には暗い真実が隠されています。
物語のクライマックスでは、伊代がパパとママのズボンを畳もうとするものの、それが部屋に干されたまま動かないという状況が描かれています。
この部分が物語のキーとなります。
伊代は3日間何も食べていないと述べていますが、これは彼女の両親がすでに亡くなっていて、彼女が孤独に置き去りにされていることを暗示しています。
部屋に干されたままのズボンが動かないのは、それが実際には両親の遺体であり、伊代がその事実を理解していないことを示唆しています。
伊代はまだ幼く、起こっていることの全貌を把握できていないため、彼女の視点からはただの洗濯物として認識されているのです。
この物語は、子供の純粋さと無知が、悲しい現実をどのように歪めることがあるかを描いています。
伊代の無邪気な行動や言葉の裏には、深刻な状況が隠されており、それを読者が徐々に理解していくことで、物語は恐ろしい一面を明らかにしていきます。