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奇妙なお雛様人形伝説 r+2675

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愛知県の山間の村に代々続く「お守り人形」にまつわる風習を知ったのは、ある秋の日の夕暮れだった。

村人の間では「お雛様」と呼ばれるその人形は、普通のひな人形とは少し異なるもので、ただ二体だけ、娘を持つ母親によって手作りされるものだという。

この村の奇妙な伝統に関わるのは、娘を授かった家だけだった。息子しか産まれない家ではその家系で風習が途絶え、別に呪いや祟りがあるわけではないらしい。

だが、娘が産まれると、母親は何かしらの材料を使い「お雛様」をこしらえる。材料は特に定めはないとされ、着物の端切れや和紙でも構わないが、必ず母親が一人で作らなければならない。他人に作らせたものには意味がなく、その母が娘に捧げる祈りと意志が宿ることが肝心なのだという。

この「お雛様」は家に飾る必要も、持ち歩く必要もない。いわば、母親の「作る」という行為そのものが祈りとみなされ、娘に一生消えぬ幸運を呼び込むとされているのだ。

不思議なことに、娘がこの人形を受け取って十七歳を迎えると、目に見えてその人生が開かれるという話だった。村の伝承では、その「十七歳」までは娘の幸運が封じられ、試練の時を経るのが良しとされる。だが、十七歳を境に、厄はお雛様が引き受け、娘の運命は解き放たれる。村人たちはそれを「お雛様が開く」と呼び、娘たちの開花を静かに見守ってきた。

村外から来た嫁であった私の母は、その風習を受け継いでおらず、したがって私自身もお雛様を作ってもらえなかった。そんなこともあり、風習を半信半疑で聞き流していたのだが、従姉妹の姉の人生が目に見えて華やかに花開くのを目の当たりにし、私の胸には少なからず複雑な感情が渦巻いていた。

従姉妹の姉は、ごく普通の少女として育ち、高校生の頃までは地味な印象だった。だが、彼女が十七歳を迎えたあの日から急激な変貌が始まった。視力が突然良くなり、痩せて美しい容姿を得て、まるで別人のように周囲を驚かせた。そして、地元では難関とされる大学に合格し、その後の彼女の人生はまさに順風満帆だった。在学中にはミスキャンパスに選ばれ、さらに専門分野の展覧会で度々入賞を果たし、優秀賞で得た副賞としての海外留学も経験した。

帰国後に結婚した相手は大手企業の経営者で、結婚して間もなく会社は急成長し、支社も次々と増えていった。その成功の傍らで従姉妹の姉は心優しい性格を保ち、私たちの受験勉強を丁寧に教えてくれるような菩薩のような存在でもあった。

「人形なんて、ただの迷信よ」と言いながらも、彼女自身も十七歳以降の人生の劇的な変化には自分でも驚きを隠せない様子だった。「視力は急に良くなるし、足の痣も消えた。ほんと不思議よ」と言って、照れくさそうに笑うのが印象的だった。

この風習の由来を尋ねると、祖母は古い神社の存在に触れた。その神社は村の奥にあり、かつて「光の神」として崇められていたという。だが、明治に入って神社の名前が変わり、神主も交代してからは記録も失われたという。祖母は、お守り人形はこの「光の神」がもたらす加護であり、人々の災厄を一身に受け止めてくれる存在だと教えてくれた。

さらに、祖母の記憶には伊勢湾台風の記憶が深く刻まれていた。彼女の家も流されてしまったが、奇跡的に家族全員が無事で、かえって家を立て直し、それがきっかけで商売が繁盛し、生活も豊かになったという。彼女が所有していたお守り人形も台風の際には流されてしまったが、損なわれた姿のまま神社で焼いて祀ったというのだ。

古い風習の話をさらに掘り下げてみると、村の女性たちの間で、厄年や困難な年齢に差し掛かるとこの人形を使って厄を祓い、特に十七歳という年齢が意味深いとされるのは「嫁に行く年齢に近づく頃には厄が払われ、運気が開かれるべきだから」とされているようだった。その昔、娘が十七歳を過ぎていくことで、やがて家庭を持ち、家族を守る力を身につけるとされたが、今もその影響があるのかどうかは定かではない。

この風習は今では衰退の一途をたどっている。都市化や価値観の変化によって、多くの村の若い世代がこの風習に関心を持たなくなりつつあり、また外から来た嫁の家庭では、継承されることが少なくなっているためである。しかし、まれに伝統を重んじ、娘のためにお守り人形を作る家もあるが、それもわずかな家だけだ。

ある正月の早朝、村の神社で古くなったお守り人形が焚かれる様子を見たことがあった。人形は輪になって並んだ村人たちに見守られながら静かに焼かれ、煙と共に青空に吸い込まれていく。人形を焼いたことで新しい年の厄が祓われると、村の古老たちは語り、そうした行いが何百年も続いてきたのだと村人たちは信じているようだった。

今でもその神社には「光の神」が祭られているが、その名前もどこか薄れた存在のように思えた。だが、「神様がやってくる扉」と言われたこの地の名残を知る人々は少なくなり、今も村の端々に息づくその風習の記憶を、ほんのわずかな人々が守り続けている。

やがて、村に住む人が減り、さらに人形を作る者がいなくなる日が来るかもしれない。それでも「お雛様」と共に受け継がれてきた村人たちの祈りが、時を超えて受け継がれていくことを願うばかりだ。

[出典:511 :本当にあった怖い名無し:2011/09/08(木) 11:31:58.25 ID:LCdS40vq0]

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