二年前の夏、俺はバイクで北海道一周のツーリングに出かけた。
三日間の日程で、気ままな一人旅だった。しかし、北海道の広大さを甘く見ていたことにすぐ気づく。町から町への距離は100kmを超え、途中には自販機どころか人の気配もない。さらに、俺の旅の方針は金をかけないこと。宿泊は道の駅や野宿と決めていた。
バイクの燃費の悪さも相まって、ガソリンスタンドの営業時間に振り回される旅だった。夜間走行を余儀なくされ、二日目の深夜、俺はガソリンが底をつきかけたため、人気のない道の駅にバイクを止めた。そこは仮設トイレ以外何もない寂しい場所だった。食料を済ませると、コンクリートの地面に横たわり、見上げた月の美しさに心が癒される思いがした。
だが、その静寂を車のエンジン音が破る。深夜2時、こんな時間に誰が走っているのか興味を覚え、道路に顔を出してみた。通り過ぎたのはただのトラック。しかし、その後に気づいた。仮設トイレのドアが開いている。誰もいないはずなのに、何かがいる気配を感じた。
恐る恐る中を覗くと、そこには女性が倒れていた。全身が凍りつき、急いで警察に連絡しようとバイクに戻ろうとしたその瞬間、大きな衝撃音が鳴り響いた。振り返ると、その女性が立っている。無表情のままこちらを見つめ、仮設トイレを叩き始めた。その力強さと異様な雰囲気に圧倒され、俺は恐怖で震えながら声を張り上げた。
「ふざけるな!俺を脅かして何が楽しいんだ!」
女はその場に泣き崩れるようにうなだれると、「どうして?」と呟き、自らの左腕に噛みついた。流れる血に衝撃を受けながらも、俺は恐怖の限界を感じ、バイクに飛び乗りその場を離れた。逃げながら振り返ると、女は見えなくなっていた。
気づくと病院のベッドで目覚めていた。見知らぬ場所。誰に助けられたのか、事故に遭ったのかすら分からない。警察官が現れ、俺を拘束した。「女性を殴り倒して殺した」と告げられるが、全く記憶がなかった。
隔離病棟に入れられた俺の唯一の手掛かりは、ベッド脇のノート。そこには自分の筆跡で「助けてくれ。あの女が。誰も俺を信じてくれない」と書かれていた。混乱する中、医師と名乗る男が現れ、俺を挑発する言葉を放つ。「君は彼女とともに永遠にここで生きるのだ」
その瞬間、背後から女が現れ、血まみれの手で俺の肩を掴む。恐怖に耐えきれず、叫びながら気を失った俺が次に目を覚ましたのは、自宅のアパートだった。あの病院も隔離も幻だったのか。それでも、心に残る恐怖が消えない。
その後も女の姿を見続ける日々が続き、俺の精神と身体は徐々に追い詰められていく。ある日、駅前の広場でジョンという男と出会った。彼は探偵で、俺の状況を察して助けを申し出てくれた。彼の所属する探偵事務所に向かい、事情を説明すると、所長が霊能の力を持っていることを知る。
「女はただの悪霊じゃない。非常に強力な力を持ち、過去に多くの命を奪っている」とジョンは言った。そして、除霊の計画を立てるために動き出した。
除霊の準備を進める中、女の背後に隠された真実が明らかになる。彼女の名は奈々子。かつて家族に虐げられ、救いを求めた先でも冷たく扱われた悲しき存在だった。彼女の兄が能力を持つ霊能者であり、彼女の情念を助長させる形で共に行動していたことが判明する。
最終的にジョンと共に除霊を実行。奈々子の背後にいる兄を社長が抑え込み、俺の中から奈々子を解き放つことに成功する。その瞬間、彼女の姿は悲しみに満ちた穏やかな表情に変わり、彼女は静かに消え去った。
物語の後日談として、俺は社長の手配で探偵事務所に就職。奈々子や兄の過去に思いを馳せながら、これからの人生を力強く歩み始めるのだった。
[899 : ◆lWKWoo9iYU :2009/06/11(木) 10:34:08 ID:T70ctGeH0]