ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 山にまつわる怖い話

走っていなかった峠 rw+981

更新日:

Sponsord Link

これは、ある若い走り屋が体験したという話だ。

冬が迫る十一月のある夜、大学三年だった彼は、気分転換にいつもの峠へ向かった。
その夜は妙に暖かく、路面は乾き、霧も出ていない。走り屋にとっては申し分のない条件だった。

深夜の峠は、彼一人のものだった。
対向車も後続車もなく、エンジン音だけが闇に吸い込まれていく。

一本目は様子見。
二本目、三本目とペースを上げ、五本目を終えた頃には、車も自分も完全に馴染んでいた。

最後にもう一本だけ。
それを今年の走り納めにしようと、彼は往路を走り切り、復路へと車を向けた。

後付けの計器群が、彼の走りを淡々と記録している。
タコメーター、ブースト計、油圧計。
針の動きが、走るリズムそのものだった。

三速に入れ、アクセルを踏み込んだ瞬間――
バックミラーに、光が映った。

ヘッドライトだった。

この時間、この峠で?
一瞬そう思ったが、追いついてくる様子はない。
距離は一定。詰めてもこないし、離れもしない。

おかしい。

さらにペースを上げる。
コーナーに突っ込んでも、その光は同じ位置に居続ける。

それだけではない。
エンジン音が、聞こえないのだ。

自分の車の音は確かに響いている。
だが、後続車の音だけが、まるで最初から存在しなかったかのように消えている。

彼はミラーから目を離した。
見続けるのが、何かの合図になる気がしたからだ。

アクセルを踏み抜く。
タイヤが鳴き、車体が暴れる。

――次に気がついた時、彼は自宅近くのアパートの駐車場にいた。

エンジンは止まっており、空は白み始めていた。
体がひどく冷えている。

車を見ると、走った痕跡だけは残っていた。
タイヤには溶けたゴムのカス。
サイドウォールには擦れた跡。

だが、どこか決定的な違和感があった。

数か月後、旅行前にバッテリーを外す際、彼は計器のログを確認した。
リセットされる前に、念のため見ておこうと思っただけだった。

走り出しのデータは正常だった。
回転数も速度も、確かに記録されている。

しかし、ある一点を境に――
すべての針が、同時にゼロを示していた。

速度ゼロ。
回転数ゼロ。
油圧ゼロ。

それは、彼がバックミラーの光に気づいた時刻と一致していた。

その後、峠を下りきり、アパートに戻るまでの時間。
計器はずっと「停止中」を示し続けていた。

だが一つだけ、ゼロになっていないものがあった。

シフト操作とブレーキ操作だけは、記録されていた。

走っていないはずの時間に、
彼は確かに、ギアを変え、ブレーキを踏んでいた。

地図で確認すると、
その「停止中」の位置は、峠のどの地点とも一致しなかった。

道がない。
座標そのものが、山の内部を指している。

峠はいまも走り屋で賑わっているという。
事故も特別多くはないらしい。

だが彼は、もうあの峠には行かない。

次に戻ってくる場所が、
駐車場とは限らないことを知っているからだ。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 山にまつわる怖い話

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.