夏休みに何か高収入のバイトないだろうか、と友人と探してたとき
9 本当にあった怖い名無し 2006/05/11(木) 17:15:39 ID:nwwQJx300
とあるバイト雑誌に『山小屋を一日間、管理してもらいたい』という応募記事が目に付いた。
日給二万円。
すぐさま電話すると「締め切りました」と。
ガックリしてると、次の週のバイト雑誌にも載っていたので、すかさず電話。
今度はファミレスで面接までこぎつけた。
バイト代は、泊まった翌日の朝に支払われるらしい。
俺たち二人は即決し、山小屋までの地図のコピーをもらい、その日がやってきた。
意外と市街地から近く、私有地の山林の中にその山小屋はあった。
『この先、私有地により進入禁止』と書かれた金網の所に、初老の男が立っており
「バイトの村田君と大川君だね、話は聞いてるから通って」と言い、俺たちに山小屋の鍵をくれた。
十分ほど歩くと、山小屋が見えてきた。
丸太で出来たのを想像してたんだが、ちゃちなプレハブだった。
風呂が無いのと、食料持参なのが玉にキズだったが、高い日給に俺たちは上機嫌だった。
そして肝心のバイト内容は
『山小屋内の軽い清掃と、外の植木鉢に水を朝夕やること』のみだった。
そこはTVもなかったんで、俺たちは適当に携帯ゲーム機で遊んだり、トランプやボードゲームをしたりして時間を潰してた。
エアコンもなく、最初は地獄の暑さを予想もしたが、緑に囲まれているためか、多少汗ばむ程度で意外とひんやりして心地よかった。
やがて夜になり、コンビニのおにぎりとパンで夕食を済ませた俺たちは、早々とパイプの簡易ベッドで寝る事にした。
その夜、ものすいごい嫌な夢を見た。
断片的にしか覚えていないが、とにかく、寝てる体の下から多くの手に突き上げられて、散々触られた挙句に引き裂かれるという、なんとも不気味な内容だった。
翌朝、最悪の気分で目を覚ますと、心なしか友人の顔色も悪い。
「どうした?俺、なんか変な夢見て気持ち悪ィーんだよな」
「夢?俺も見たが、これこれこういう夢だけど……」
「同じ夢じゃん!」
気持ち悪くなった俺たちは、しばらく無言になった。
やがて、友人がポツリと言った。
「なぁ、このプレハブの床なんだけど……気のせいかもしんないけど……微妙に揺れてない?」
そう言われれば、何かウォーターベッドの上にいる様な不思議な感覚が目覚めた時にあった。
夢の名残だろうと思い、別に気にも留めてなかったんだが……
「なぁ、床下見てみようぜ」
友人が言った。
確かに、プレハブは地面から10cmほど浮いており、床下の四方をポールが支えている造りになってるようだった。
気になった俺は、友人に同意した。
俺たちは外に出た。
朝とはいえ、まだ五時ちょっと前で結構薄暗い。
友人は持参したミニペンライトで床下の隙間を照らした。
「わぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
「どうした!!」
「腕!!腕腕腕腕、腕がぁぁぁっぁぁ」
「あっ!!」
床下には青白い、無数の切断された腕が散らばっていた。
だが、腕の切断面を見た瞬間、マネキンの腕だという事がすぐに分かった。
ただ、異様なのは全てのマネキンの腕に、女の顔写真(ポラロイド)と名前がマジックで書いてあった。
全部で五十個近くはあったんじゃないだろうか。
マネキンであることは、触って間違いなく確認した。
「何だよこれ……普通じゃねーよ……バックれようか?」
「バカ、一応金もらうまでは待とうよ。それでもまた新たに何か言ってくるようであれば、逃げよう」
もう一度プレハブに戻る気にもならず、俺たちはボーっと外に立っていた。
あれこれ話している内に七時になり、昨日の初老の男がやってきた。
「お疲れ様。早いね。早速、これバイト代ね……ところで提案があるんだけど、あと三日間くらい泊まれないかな?もちろんバイト代は三日分の6万払うけど」
「お断りします」
俺たちはハモるように言い、一目散に逃げた。
振り返ると、男が苦々しそうな顔をして、携帯を耳にあて、こっちを睨んでいた。
それ以来、バイト雑誌でその応募記事は見たことがない。
おそらく、あのプレハブもないだろう。
帰り道、友人がいった。
「何かの実験だったんだろうね」
俺は軽く頷いて、同意した。
(了)