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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

額の影 nc+

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小さい頃、父方の叔母の額に角が見えた。

――そう言うと、決まって笑われるか、気味悪がられるか、どちらかだと思う。だから私はずっと誰にも言わなかった。ただ一度だけ、母に口にしてしまったことがある。

祖母の家で親戚が集まった日のことだった。畳の匂いと、台所から漂ってくる煮物の甘い匂いを、今でも妙に鮮明に覚えている。大人たちは居間で酒を飲みながら話し込み、子どもたちはその周りを走り回っていた。

叔母は縁側に座っていた。日差しを背に、こちらを向いて微笑んでいた。柔らかい声で私の名前を呼び、手招きした。その瞬間だった。

叔母の額の、生え際の少し上。左右ではない。中央から、ほんの少しだけ前に突き出た影が見えた。一本なのか二本なのかも分からない。色も形もはっきりしない。ただ、皮膚の下から押し出されるような、妙な盛り上がりが、角のように見えた。

錯覚だと思った。光の加減だと自分に言い聞かせた。でも、目を逸らしてからもう一度見ても、それは消えなかった。叔母が笑うたびに、額の皮膚が動き、その影もわずかに揺れた。

怖さはなかった。不思議と、嫌悪感もなかった。ただ、見てはいけないものを見てしまった、という感覚だけがあった。

「ねえ、ママ」

自分でも、どうして口に出したのか分からない。母の服の裾を引いて、声を潜めて言った。

「おばちゃんのここ、なんか出てる。角みたい」

母は一瞬、何を言われたのか理解できない顔をした。次の瞬間、表情が一変した。

「そんなはずないでしょ!」

低い声だった。叱るというより、遮断するような声。母は私の肩を強く掴み、目を逸らさずに言った。

「変なこと言わないの。いい? 二度と、そんなこと言わないで」

その剣幕に、私は何も言えなくなった。母の爪が食い込んで痛かったのに、声を上げることもできなかった。

それ以降、私はその話を一切しなかった。自分の中でも、あれは見間違いだったのだと思うようにした。

叔母は優しかった。会うたびにお菓子をくれて、私の話をちゃんと聞いてくれた。折り紙を教えてくれたり、一緒に絵本を読んでくれたりした。額のことを思い出すのは、決まって一人でいる夜だけだった。

小学校五年生の年、叔母は突然いなくなった。

最初は「入院した」と聞かされた。理由は誰も詳しく教えてくれなかった。ただ、従姉妹が学校に来なくなり、しばらくして転校したと知った。

それから何年も経って、最近になって父から詳しい話を聞いた。

叔母は、自分の娘を虐待していたという。表では穏やかで、愛想がよく、子ども好きに見えていたが、家の中では違ったらしい。泣き声がうるさい、邪魔だ、言うことを聞かない。そう言って、手を上げていたと聞いた。

離婚し、強制的に病院に入れられたとも聞いた。

さらに父は、少し言いづらそうに付け加えた。

「叔母さんな、友達の間じゃ子ども嫌いで有名だったらしい。妊娠した時も、周りにずいぶん心配されてたって」

その言葉を聞いたとき、なぜか額の影のことが頭に浮かんだ。

角が見えたからといって、叔母がそういう人間だと分かっていたわけじゃない。予知でも、霊感でもない。ただ、あのとき、私の目にはそう見えただけだ。

それでも、思う。

あの角は、何だったのか。

本性だったのか、歪みだったのか、それとも私の側にあった何かなのか。

母があれほど強く否定した理由も、今では聞けない。もしかすると母も、薄々何かを感じていて、だからこそ怒鳴ったのかもしれないし、単に不吉な話を子どもが口にするのが嫌だっただけかもしれない。

確かなのは、叔母の額から、あの影は消えなかったということだ。

最後に会った日のことを思い出す。叔母は相変わらず笑っていた。お菓子を差し出し、私の頭を撫でた。その額には、やはり、はっきりしない盛り上がりがあった。

私はもう何も言わなかった。ただ、見ていた。

角のようなそれが、私の中から完全に消えることは、たぶんない。

[出典:58 :本当にあった怖い名無し:2018/10/02(火) 23:05:13.50 ID:ftCR5T4f0.net]

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