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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

こちらを向かない rw+7,445-0209

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八階の自宅に戻るため、深夜のエレベーターに乗ろうとしたときのことだ。

扉の中に、先客が一人いた。
男だった。
ただ、なぜか壁に向かって立っている。背中をこちらに向けたまま、微動だにしない。

一瞬ためらったが、掲示板でも見ているのだろうと自分に言い聞かせ、そのまま乗り込んだ。

扉が閉まった直後、低い声が聞こえた。
ボソボソと、言葉にならない何かをつぶやいている。

嫌な予感がして、壁に背中をつけるように立つ。視線だけで男を盗み見ると、顔を壁ぎりぎりまで近づけ、歯をむき出しにしていた。怒りだけで固めたような表情だった。

エレベーターが動き出す。
八階から一階までが、異様に長い。

男の声は次第に大きくなり、「だから貴様が言うか」「俺のせいか」と、誰かに詰め寄るように怒鳴り始めた。
こちらに向く気配はない。それが、かえって怖かった。

やっと一階に着き、扉が開いた瞬間、逃げるように外へ出た。
振り返ると、男は降りてこなかった。最初からそこに固定されていたみたいに、同じ姿勢のままだった。

それから数週間、同じ男を何度も見かけた。地下通路で、壁に向かって話しかけている。自宅近くでも、同じように。

狙われているのかと思い、神経がすり減った。

ある日、友人と歩いているとき、また男がいた。
「ほら、あいつ」と言って指を差すと、友人は怪訝な顔をした。

「誰もいないぞ」

その瞬間、胸の奥が冷えた。

思い返せば、最初に会ったのは深夜一時過ぎだった。
妙に納得してしまい、逆に少し安心した。幽霊なら、刺されることはない。

だが、事態はそこで終わらなかった。

ある夜、帰宅すると、玄関の前に男がいた。
ドアに顔を寄せ、低い声で何かを言い続けている。入れず、コンビニに逃げた。

戻ると姿は消えていた。

次の日、冷蔵庫の前にいた。
壁と同じ距離で、同じ声で。

塩を振りかけても、何も起きない。

怒鳴り声で眠れない夜が続き、ついにこちらも怒鳴り返した。
「消えろ」と。

翌朝、目を開けると、顔のすぐ前に男がいた。
また、壁に向けるのと同じ表情で。

その後、友人に言われた。
「さっき、壁と話してたぞ」

それ以来、何が正しいのかわからない。
病院にも行った。何か言われた気もするが、詳しいことは覚えていない。

ただ、今も夜中に冷蔵庫の前を通ると、
背後の壁が、少しだけ近く感じる。

[出典:839 :本当にあった怖い名無し:2015/06/29(月) 01:27:03.03 ID:ggI/nIIS0.net]

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