短編 洒落にならない怖い話

雨の公園 ベンチの女#1067

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平成二十年、僕が大学生の頃の話です。

当時、都内で一人暮らしをしていました。

麻雀が好きで、最寄り駅近くの雀荘でバイトをしていました。

大学もこの最寄り駅から通学しており、学校帰りにそのまま行けるので立地にも満足していました。

問題はこの最寄り駅や、バイト先から自宅へ帰るルートなのですが、普通の道路を通って帰ろうとすると、長い上り坂をゆるいカーブを描いて登って行かなくてはいけません。

これは自宅から離れていくような曲がり方になっており、非常に遠回りとなってしまいます。

そこで、普段から自宅と駅のちょうど間にある公園を突っ切っていました。

この公園ですが、駅側から行くとお寺の横の細い道が入り口となっております。

細い道の両側は2mほどの高さのコンクリート塀が立ち、左手はお寺、右手は墓地となっています。

細い道を100mくらい進むと公園が見えてきます。

公園はイチョウや桜の木で囲まれており、少し進むと開けたところに砂場やブランコがあります。

道は続いており、さらに木々がしげった道となり、右手には、昔は看護師の独身寮となっていた建物があります。

といっても独身寮の入り口は、公園とは反対側にあるので入ることはできません。

さらに、今は使われなくなり、窓には板が打ち付けられています。

この建物のベランダが公園側に向いていますが、ボールよけの網があるため敷地に入ることはできません。

先に進むと階段があり、登るといくつかの遊具がある広場へと出ます。

こちらも周りはコンクリートの塀と木々に被われています。

さらに進むと分かれ道となっている場所へ出ます。

右に曲がると隣接する神社の境内へ(お寺とは別に神社があります)

まっすぐ行くと道路へと出ます。

自宅がこの公園の出口からすぐの所にあるため、このルートを使用していました。

前置きはここまでで、本題に入ります

平成二十年の十一月でした。

その日は午後から天気が崩れてしまい大雨でした。

僕のその日のスケジュールは、授業とバイト。

授業を終えた頃に雨が降り出したので、持ってきた折りたたみ傘を使い移動します。

バイトもいつも通りにこなし、夜二十四時に仕事を終えました。まだ雨は降っていました。

雨が激しかったため、持っていた折りたたみ傘では防ぎきれないと思い、バイト先で傘を借りることにしました。

バイト先の傘とは、急な雨の際にお客さんに貸す傘で、雀荘名と管理番号が書かれたシールが貼ってあるものです。

大きめのビニール傘で、番号は一~十番まであります。

お客さんに貸す際に、誰にいつ貸したかを控えておくために番号がついています。

僕は店長に了解を得て、七番の傘を借りて店を出ました。

辺りは真っ暗でした。

さらに大雨ということもあり、寒かった記憶があります。

公園へと続く細い道へと入りました。

電灯が無いため細い道に入るとすぐに、それまでよりもさらに暗くなります。

こんな日だし、遠回りでも車通りのある道で帰れば良かったと思いましたが、いつものくせで公園まで来てしまいました。

ここまで来てしまったら、さすがに引き返すのは面倒なので、そのまま帰ろうと足を進めたのを覚えています。

公園内は階段で分けられていますので、ここでは仮に階段を上る前にある広場を一階とします。

一階には遊具の他にトイレと電灯とベンチがあります。

トイレにも電気があるため、入り口の細い道よりは少し明るく感じますが、それでも夜は暗く寂しい場所となっています。

普段から歩き慣れていますが、人とすれ違ったことは数えるほどしかありません。

さらには雨ですので、人がいるなんて全く考えていませんでした。

でも、赤い服を着た女性がベンチに座っていました。

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女性はベンチに座り、自分のひざにひじをついて顔を手でおおっていました。

傘を持っていないのか、ずぶ濡れでした。

一瞬驚きましたが、このまま見て見ぬ振りをすることができず、「どうしましたか?」と声をかけました。

返事はありません。

僕はバイト先の傘をベンチに立てかけて言いました。

「もう一本傘を持ってますので、これを使ってください」

返事はありません。

少し不気味でした。

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傘を残し、その場から離れ、家を目指しました。

公園内の階段を上る途中で、やはりあの女性が心配になり、警察に連絡しようとしましたが、携帯がありません。

バイト先で充電をしたまま忘れてきてしまったようです。

最悪でした。でも携帯電話は必要でした。

その日は確か木曜日で、月・火・水・木というバイトスケジュールだったので、どうしても取りに行きたかったのです。

バイト先へ戻る為に、来た道を引き返します。

傘を貸してからほんの二、三分しか経っていませんでしたが、ベンチに女性はいませんでした。

その後、小走りで公園の駅側の出入口まで行きましたが、女性は見当たらず。

公園内にはトイレがあるため、そこに行ったのかと思い深くは考えませんでした。

バイト先へ戻り、携帯を回収しました。

寒かったのでホットコーヒーを飲みながら店長には傘の件を簡単に説明しました。

店長は傘を見知らぬ女性に渡したことよりも、そこに女性がいたことについて怖がっていました。

さらにはその状況で近寄るとかありえないし、そもそも公園のルートで帰るとかアホじゃないのかと言われる始末。

ちなみに店長は女性です。

怖がらせたくは無かったので、女性が無反応だったことや、終始手で顔をおおったままだったことは伏せておきました。

店長にアホ呼ばわりされましたが、少し出来事を振り返りました。

深夜二十四時過ぎに大雨の中、ひと気の無い公園でずぶ濡れになっている女性。

しかも話しかけても返事は無く、顔も手でおおったまま。

……たしかに不気味です。

その後は公園を通らずに帰りました。

家に帰って一時間ほど経ちました。既に部屋の電気は消し、布団に入っていました。

『ピンポン♪』

インターホンが鳴りました。

自宅は1ルームだったのですが、玄関が一階でドアを開けるとすぐに階段があり、部屋は二階という造りでした。

備え付けのインターホンがカメラ付きだったので、人が来たときは階段を降りずに確認ができます。

モニターを見ると、さっきの女性が映っていました。

手で顔をおおっていました。

『ピンポン♪』

手で顔をおおったままなのに、インターホンが鳴ります。

おかしい……

僕はモニターを見つめたまま固まっていました。

一分ほどするとモニターの画面が消えました。

インターホンの仕様で呼び鈴に出ないと勝手に画面が消えるのです。

その瞬間ドアが

ガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャ

もう泣きそうでした。布団をかぶり、震えつつもじっとしていました。

三十分くらい経つとまたインターホンが二回鳴り、

ガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャ

朝四時まで続きました。

五時になると、店長が退勤の時間なので、電話をしました。

店長はまだ店の中にいて、帰る準備をしていたそうです。

店長に電話をしたのは、傘の件を話しているのが店長だけだったからです。

この時は、携帯を取りに戻って本当に良かったと心の底から思いました。(自宅には固定電話を引いていませんでした)

「さっき傘を貸した女性が、家のドアをガチャガチャし続けてくるんです……」

出来事を話すと店長も泣きそうでした。

怖いので迎えに来て欲しいとお願いをしているところ……

「キゃアアアアアァァァァァァ!!」

店長が叫びました。

これは後から聞いた話なのですが、僕と話している途中に『ゴン』という音が店のドアから聞こえたそうです。

店のドアはガラスでできていて外が見えるのですが、そこには手で顔をおおったずぶ濡れの女性が立っていたそうです。

悲鳴をあげ、目を一瞬そらすと女性の姿はなくなっており、ドアの外にはバキバキに折れた傘がおいてあったそうです。

その後、さすがに引っ越しましたがバイトは卒業まで続けました。

今でも客として通っていますが、あれ以来奇妙な出来事は起きていません。

店長を含めて良く飲み会をしますが、毎回この話が話題にでてくるほど怖い体験でした。

(了)

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