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短編 洒落にならない怖い話

封印された空き部屋【ゆっくり朗読】3600

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あの日は晴天で絶好のキャンプ日和だった。

遠足だなんだとわいわいがやがや、子供だった俺達は、先生の指示に従ってバスに乗り、現地に着いて山を登った。

登ってる途中にはやけに急斜面な岩肌があって、そこには数本の鉄の鎖が上から垂れ下がっていた。

先生の指示で、僕たちは順番にその鎖を手に取ってそこを登ることになった。

登っている途中には花が活けてある瓶が置いてあって、ここで誰かが死んだんだ……そんなことを思った。

今思うと、子供だったから余計に急斜面に見えたんだと思う。

先生達は普通に登ってたから、実際はそれほど大したもんでもないと今では思ってる。

そんなこんなで、俺達は鎖の垂れた斜面を登り終えると、そこから少し先にあった開けた場所で、持ってきていたお弁当を皆で食べた。

でも山登りはまだ続くらしく、先生の「まだまだ登るよー」という声に俺達は不満の声をもらした。疲れてたし、なにより子供だった。

でも先生達はそれを予想してたんだろう。

用意していた苺の飴玉を皆に配って「頑張ろうねー」とかそんなことを言って、俺達もはーい! って元気に答えた。

子供だったからな、皆してすごく素直だった。

それから少し経って、白い建物が見えてきた。

やっと目的地に着いたんだ。そう俺が思ったときに、何故か先生は

「ここで整列してー」と綺麗に整地された開けた場所で言った。

そこから階段を少し登ると見えていた建物に行けるらしく、なんでここで止まるのかと俺は思った。

でもすぐに納得した。

先生は建物の中ですることしちゃいけないこと、日程の説明をし始めたからだ。

話もすぐに終わり、俺達は建物に行くと、割り振られた部屋へと荷物を置きにいった。

中は普段使っていないこともあったせいか、やけに薄暗く感じた。

蛍光灯もしっかり点いてたのに、何故か頼りなさ気に見えたのが印象的だった。

二泊三日のキャンプ初日はカレーライス作りで終わった。

飯盒でご飯を炊いて、管理人さんが持ってきてくれた材料でカレーを作った。

味はもう覚えてないけど、飯盒のそこに残ってたご飯で食べたやつはおいしかった気がする。

初日の夜、クラスの男女で分かれて部屋で就寝につくことになったけど、人数割れが起きて、女子二名だけ、先生達と一緒の部屋で寝ることになった。

たしか部屋の数は足りていたのだけど、一箇所だけ使っちゃいけない部屋があったんだ。

それで仕方なく、先生達と余った二名の女子は一緒の部屋で寝ることになった(もちろん先生達の部屋も女子と男子で別れてた)

この日は俺には何も起きなくて、ゆっくり眠れた。

だけどそうでない人もいた。

そのことを翌日のオリエンテーリングで知ることになったんだ。

朝起きて、同じ部屋の奴らを起こして、布団を片付けて、点呼を取った。

朝食も自分達で作った。

何を作ったのかは憶えていない。だけど材料は用意されたものだった気がする。

朝食を食べ終わると、先生達は昼過ぎに行なうオリエンテーリングの準備をしに行った。

つまり、僕たちは自由時間を得たことになる。

施設に置いてあった竹馬やタイヤを使ったブランコのようなもので遊ぶ人達。

俺もそれに加わろうとしたとき、一つのグループから小さな悲鳴や驚きの声があがった。

きゃあ、うわ、とかそんな感じの声。その中心には二人の女の子の姿があった。

興味があったので、俺もそのグループに加わる。

どうやら、昨日の夜に先生達から聞いた話をしていたらしい。

件の女の子二人組は、一つの部屋が空いてたことを知っていて、というよりこれは皆が知っていた。

だって、建物に入って何組一班はここ、二班はここ、と一つ一つ確認していって、最後に一つだけ部屋が余ってたからだ。

それで、女の子達は部屋一つ私たちのものだ。

みたいなことになるのではないかと期待してたらしい。

それで先生達に聞いた。たしかこんな感じの会話。

「どうしてあの部屋を使っちゃダメなんですか?」

先生達は答えた。

「二人っきりだと危ないでしょ?」

そんな感じ。

今思うとおかしい会話だ。

なんで皆も泊まっているのに二人っきりだと危ないのか。

書いていて思った。

確かにおかしい。やっぱり先生の作り話にしてはおかしい部分がある。

 

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最後に、先生は二人を納得させるのにこういう話をしたんだ。

「昔ここで殺人事件があって、顔だけが件の余った部屋のロッカーに入っていたの」

「それでね、頭は見つかったんだけど身体は見つかってないの」

そんな話だ。

この施設の近くには沼があって、そこに沈んでるんじゃないか、と班の奴らと話したりした。

たしかに、ここに来る途中には沼があり、そこに行く道もあった。

ザリガニが取れるとか、そんな話をしていた気がするが、沼にはいないんじゃないだろうか?

それとも沼の淵にはいるものなんだろうか?

それはさておき、件の女の子達の話には続きがあった。

夜中に隣の部屋からガタンガタン、という物音がしたらしい。

先生達は寝ていてゆすっても起きなくて、恐くて目を瞑っていたら朝になっていた、というそんな話だ。

でも俺達は夜遅くまで起きていたけれど、そんな音はしなかった。

だから、俺はそのとき聞き間違いか夢でも見ていたのではないかと思っていた。

その子たちの寝ていた隣の部屋は……

件の空き部屋だった。

オリエンテーリングの内容はいたって簡単。

日暮れまでに、先生達が置いて来たスタンプを配られた紙に押してくること。

スタンプの置いてある場所は配られた紙の裏に書いてあった。

なぞなぞみたいな感じで正直つまらなかった。

他の皆は楽しそうにしてたけど、やはり俺と同じようにつまらなそうな人もいた。

うちの班の奴らもつまらなそうで、そんな時に班長が言い出した。

「沼の方に行かない?」

スタンプの大半を押し終わっていた俺達は班長の言葉に頷いた。

みんな飽きていたんだと思う。

沼に続いてる道はあったけど、獣道っぽくて行くのが大変だった。

それでも歩き続けて沼に着いた。

他の班の子の声も聞こえたから、結構近くにあるんだなって思った。

どろっとした感じの水がたまったような、そんな場所だ。

見た感じ深さもわからない。

でも水に触れてみようとかそんな気はしなかった。

なんか気持ち悪かった。

だって、聞いた話では身体が見つかっていない死体があったんだから、もしかしたらここにあるのではないか?

とかそんなことを思ってた。

たしかにそこには壊れた傘とかとび職の人が履いてそうな靴とか落ちていたけど、

今思えば警察が一回調べてるだろうしそんなはずないんだけど、沼の中が気になって仕方がなかった。

結局何もなかったねってことになって、俺達はオリエンテーリングに戻った。

俺は背後に薄気味悪いものを感じていたけど、振り返らずにそのまま皆と一緒に戻った。

明日帰るということもあってか、夜にキャンプファイヤーをした。

木を二段三段重ねただけの小さなやつだけど、すごい! とかそんなことを思ってたような気がする。

それも終わり、部屋に戻ってあとは寝るだけというそんな時にトイレに行きたくなった。

消灯時間が過ぎたらさすがに恐くてトイレには行けない。

だから、俺は消灯時間が来る前にさっさとトイレに行くことにした。

トイレは古ぼけていて蛍光灯の部分は豆電球だった。

やけに古いな、それが俺の感想だった。

薄暗くて端の方が汚れていて個室には傷が多くて、正直、沼より気持ち悪かった。

用を足した俺は手を洗うとすぐに部屋に戻った。

そういえば、手洗い場の鏡は斜めにひびが入っていた。それが余計に恐かった。

消灯時間ですよ、と先生達が部屋に知らせに来たあとで、班の一人がトイレに行きたくなったとか言い出した。

一人で行けと皆も俺も言ったが、そいつは恐くて嫌だから誰かついてきてくれと頼みだした。

部屋から廊下を覗いて見てみるとまだ明かりがあった。

だから俺が言ったんだ。

「まだ明るいからさっさと行ってきたほうがいいよ」

それを聞いてそいつはさっさとトイレに行った。

だけど戻ってこないうちに消灯時間が来て、廊下の明かりが消えたんだ。

それからしばらくしてもそいつは戻ってこなかった。

班のやつらもそれが心配になったのか、様子を見てきたほうがいいんじゃないかとか俺の方を見て言った。

行ってこいと言ったのは俺だし、寝る予定の場所が入り口に近かったせいもあった。

さすがに皆が俺を見るものだから、仕方なく嫌々トイレまで様子を見に行くことになった。

廊下は真っ暗だった。

非常灯も一つしか見当たらなかった。

部屋を出て右の突き当たりにトイレはある。

ちなみに部屋を出て左へ行き、突き当りを曲がって二つほど先の部屋、その真上の部屋が件の空き部屋だ。

上に行くことはないだろうからと、俺は昼間に聞いた話を思い出さないように

「恐くない、恐くない」と思いながらトイレに向かった。

トイレから部屋までの道は一本だけだ。

途中に階段があって上と下に行けるが、階段を通らない限りトイレに行ったやつは俺と鉢合わせするはずだった。

でも、トイレに着いてもそいつには合わなかった。

つまり奴はトイレにいることになる。

トイレの前で少し待ってみるが、中からは物音一つしない。

このまま戻ったら部屋の奴らに何言われるかわかったもんじゃない。

だから俺は明かりの点いていないトイレの中に入った。

手洗い場を通り過ぎて、個室とかがある場所まで来た。

でも聞こえるのは俺の足音だけで、他の音は聞こえなかった。

そこには誰もいない。

だから残るは個室の中だけ。

仕方なく俺は個室を一つずつノックしていった。

「いないのか?」

と小さな声で確認するように聞きながら。

小さかったのは恐かったからだ。大きな声は出なかった。

そうして個室をノックしていくと、一つの個室の前でノックが返ってきた。

だからちょっと安心して、「早く出てこいよ」

って俺は言ったんだ。

そうしたら、「出てもいいの?」

とか答えた。

でもそれはトイレに行った奴の声じゃなくて、それで俺はびびって動けなくなって、声も出せなくなって……

それでも個室からは、「出てもいいの?」って二度目の声がしたんだ。

俺は恐くてトイレから逃げ出した。駆け足でだ。

先生達に怒られるかもしれないとか、そんなことも忘れて走って部屋に戻った。

だけど部屋の前に来て違和感を覚えた。

だって、目の前にある部屋は俺のいた部屋じゃなかったんだ。

俺の部屋は二百三号室って書いてある部屋なのに、目の前にある部屋には三百六号室って書いてあったんだ。

でも俺は階段を上った記憶もなくて、角を曲がった記憶もない。だから三百六号室の前にはいないはずなんだ。

けれど、確かにそこには三百六号室と書かれた部屋があった。部屋に入る気にはなれなかった。

ふとそのとき、背後に違和感を覚えた。

誰かがいる、そんな雰囲気があった。

でも足音とかそんなのは聞こえなかったし、さっきはそんなもの感じなかった。

普段は聞こえない、気づくことすらない自分の鼓動の音がわかって背筋がぞくぞくってして、身体が震える感じがして、そのとき隣の部屋から悲鳴が聞こえた。

隣の部屋から先生達の驚いたような声がして、女子の泣く様な声が聞こえて、気づいたときには背後にあった気配は消えていた。

先生に怒られるかもしれないと俺は気づいて、自分の部屋に戻るとそこにはトイレに行った奴の姿があった。

それで俺はそいつに言ったんだ。

「どこいってたんだよトイレまで探しに行ったのに」

そしたらそいつが答えたんだ。

「え、俺はちゃんとトイレに行ってたぞ?」

トイレとここまでは一本道、そいつが嘘を言ってなければ俺はどこを歩いていたというのか?

でも、そいつが嘘をついてるようには思えなかった………

(了)

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