三年前の事です。私は妻と長男三歳と、温泉宿に一泊旅行に行ったのでした。
757 :2003/06/09 14:33
夕食前に大浴場で一風呂浴びて、妻が出てくるのを長男と宿屋のお土産コナーで待っていた時の事です。
「家に火をつけるわよ……」
と言う声を聞いたのです。
ふと、私が声がしたあたりを見回すと、男女が二人立っていました。
どうやら、女の人が男の人に言ったセリフのようでした。
私が聞き耳を立てると案の定、別れる別れないの痴話ゲンカをしていたのです。
私が野次馬根性を出してしまって、もう少し聞きたいと耳を澄ますと、男の人が
「おい!人が見てるだろう!!!」
と、女の人を諭したのでした。
私は恥ずかしくなって、何事も無かったかの様にその場を立ち去ろうとしたのですが、一瞬!女の人が鋭い目つきで私を睨み付けているのに気付きました。
美人は美人なのですが、思いつめていると言うか何というか、非常に怖いと感じました。
あんな鬼みたいな顔じゃ男も逃げるな~と思いながら、その場を後にしたのです。
そして何事も無く楽しい旅行を終え、次の日曜日の事です。
妻が「不審な女性が家の前をウロウロしている」と言います。
私が外に出ると、女性はあっという間に姿を消しました。
次の日曜日にも、やはり女性がウロウロしています。
私は裏口から周り、女性に気付かれないように遠回りして、女性の背後から
「何をしてるんだ!!」
と怒鳴ると、女性は驚いて振り返りました。
そう、あの時の女性だったのです。
今度は私が驚く番でした。
私が一瞬固まってしまった間に、女性は風の様に逃げて行きました。
私は家に入ると、妻に宿での出来事と、その時の女性がうちの玄関前をウロウロしていた事を話しました。
妻も驚き、そして恐れます。
「なんで、ウチに?ウチには小さな子もいるのに?もしかして危ない人?」
その時はとにかく、落ち着いて様子を見ようという事にしました。
平日も注意して家の周りを見ていたのですが、やはり次の日曜日に、再び玄関前に女性が現れました。
いくら危なそうな人でも、相手が女性と言うのもあり、また、私自身が剣道の有段者でもあったので、ゴルフクラブのアイアンを手に持ち、いかにもゴルフの練習をしていたフリをして女性に声を掛けました。
「何か用ですか?」
言葉とは裏腹に、厳しく詰問するように言い放ちました。
すると女性は、玄関越しに私を睨み付けます。
その目の怖いこと怖いこと。私はマジで足が震えてしまいました。
しばらく睨み合っていましたが、私がついに我慢できなくなって目を逸らすと、女性はまた風の様にどこかへ逃げて行きました。
家に倒れ込む様に逃げ込むと、窓から覗いていた妻も青い顔で出迎えます。
私たちはすぐに、泊まった宿に電話して女性の事を聞いたのです。
フロントの係の人は、
「他のお客様の情報はお教えできません」の一点張りでしたが、
事情を話し、そして教えてくれないと警察に訴えると脅すと、支配人の方に代わってくれました。
支配人に改めて事情を話すと、しっかりした宿なのでしょう、不審な男女の二人組の事を覚えておられました。
支配人は、「他のお客様の情報は教えられないが、宿のほうから二人の客の方に連絡を取ってみます」と言ってくれました。
安心して電話を切ったのですが……
しばらくすると宿から電話がありました。
そして支配人が言うには、
男女二人組の宿帳に書かれた住所も電話番号もデタラメだったと言うのです……
(了)