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短編 r+ 不動産・物件の怖い話

四階奥の声 r+4,988

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上京して間もない頃、部屋探しをしていた。

いくつも内見を繰り返し、候補を潰していく日々。あの時は、駅から近く、外観がきれいで、家賃が手頃なら即決でいいと思っていた。
それで見つけたのが、世田谷区にある四階建ての小さなマンションだった。

駅から徒歩一分。外壁は白く塗られ、手入れの行き届いた植え込みが入口を囲っている。内装も新しい。
ワンルームで七万円。敷金も礼金もなし。条件は理想的すぎた。
胸が跳ねるような感覚があった。「ここにします」――反射的に、不動産屋のカウンターで口走っていた。

だが、担当の男性は一瞬こちらを見つめ、背後の事務所奥へ引っ込んだ。
カーテンの隙間から見えるみたいに、社員数人と小声でやりとりしている。聞き取れないが、何か重いものが混ざっている声色。
数分後、戻ってきた担当は笑顔を貼り付け、「ではご案内します」と言った。なぜか別の社員がもう一人ついてきた。

車でマンションへ向かう途中、二人は妙に口数が少ない。
到着し、四階の一番奥の部屋の前に立った。鍵を開ける音が響く。
だが、二人は玄関の外から一歩も入らない。
「どうぞご覧ください」――足を踏み入れたのは私一人だった。

室内は清潔で、木目の床が光っている。少し日当たりが弱い気もしたが、そんなことは気にならなかった。
「ここに決めます」
そう告げると、二人は顔を見合わせた。
「あの……あまりお勧めはできませんが……本当に?」
「他にもいい物件ありますよ」
理由は言わない。ただ、引き止めたいという圧だけが伝わる。
日当たりの悪さや構造上の欠点だろうと勝手に解釈し、契約書にサインした。

入居して数日は、何もなかった。
だが、五日目の夜、シャワーを浴びて出ると、閉めてあったカーテンの片方が全開になっていた。
風も窓も触っていないのに、外の夜気が室内に入り込んでいる。

その次は深夜のテレビ鑑賞中だった。
背中、首の後ろあたりで、くぐもった男の声が囁く。
「おい」
振り返っても誰もいない。音もない。ただ壁の木目が歪んで見えた。

数週間後、帰宅すると、彼氏との写真立てが床に落ちていた。
表面を伏せるように、ぴったりと裏返っている。
その二ヶ月後、彼氏から突然別れを告げられた。理由は曖昧で、まるで本人もわかっていないようだった。

バイト先の友人を泊めた夜、午前三時頃、急に「帰る!」と叫び出した。
震える声で「恐ろしい目をした男に首を絞められた」と言う。
不思議なのは、それが一度ではなく、別々の友人四人、全員が同じ体験をしたということだった。互いに面識すらないのに。

その後も不可解なことは続いた。
夜中、近隣から「男の叫び声がする」と通報され、警察が来た。
もちろん、部屋には私一人。
同じ理由で三度も警察が来た。

母が送ってくれた厄除けのお札を壁に貼った。数日後、それは燃えたようにまだらな焦げ目がついていた。
見た友人が「ここ出たほうがいい」と言った。その友人は数ヶ月後、婚約者に振られた理由で首を吊った。
両親は、突然のように離婚した。

ある夜、壁から黒い煙がゆっくりと出ては消えるのを見た。
耳元で、あの声が囁く。
「おい……」
「金どこ……金……」
部屋を歩き回る足音。寝ていると髪を引っ張られ、頬を叩かれた。

やがて鬱が進み、幻聴の怒鳴り声が一日中離れなくなった。
気づけば、飲んだことのない酒類を何本も空け、エタノールまで口にしていた。
そして手首から血を流し、玄関の外で叫んでいたという。
覚えていない。気づけば病院のベッドで医師や看護師に囲まれていた。
「運ばれた時、呼吸は止まっていましたよ」
医師の言葉に、体が勝手に震えた。

精神科に一ヶ月入院し、退院後すぐ友人に手伝ってもらって引っ越した。
だが、その時に使った車で友人の夫が人身事故を起こし、刑務所に入ることになった。

不動産屋にこの一連の出来事を話すと、担当は黙ってうなずき、目を伏せた。
「一ヶ月分の家賃と、退去時の修繕費はいりません」
その言い方は、まるで「もう関わらない方がいい」と告げているようだった。

お寺でお祓いを受けた時、住職は私の顔を見て一言だけ言った。
「言葉にできないものを背負って来られましたね」

今は、普通の暮らしに戻った。
けれど、世田谷区若林Aマンション四階の一番奥。あの部屋は、確かに生きている。
あれはただの事故物件ではない。関わった人間すべてを食らう、底のない何かが潜んでいる。
そう信じている。

[出典:239 :本当にあった怖い名無し:2015/03/26(木) 16:47:41.94 ID:FBcOQoNx0.net]

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