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短編 r+ 不動産・物件の怖い話

入らなかった人たち rw+5,410-0209

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上京して間もない頃、部屋探しをしていた。

条件は単純だった。駅から近いこと、外観がきれいなこと、家賃が手頃なこと。それだけでいいと思っていた。内見をいくつも重ね、候補を潰していくうちに、世田谷区の四階建ての小さなマンションに行き当たった。

駅から徒歩一分。白い外壁に手入れの行き届いた植え込み。エントランスも共用部も新しい。ワンルームで七万円、敷金礼金なし。条件としては出来すぎていた。

内見の帰り、不動産屋のカウンターで私は即座に言った。
「ここにします」

担当の男性は一瞬、私の顔を見た。それから何も言わずに立ち上がり、事務所の奥へ消えた。ガラス越しに、別の社員と小声でやり取りしているのが見える。言葉は聞こえない。ただ、声の調子だけが妙に重かった。

数分後、男性は戻ってきた。今度は、別の社員を連れている。
「では、ご案内します」

車で向かう間、二人はほとんど話さなかった。雑談もない。沈黙が続いた。

部屋は四階の一番奥だった。鍵を開け、ドアが開く。だが、二人は玄関の外から一歩も入らない。
「どうぞ」

中に入ったのは、私だけだった。

室内は清潔で、床も壁も新しい。日当たりはやや弱いが、気になるほどではない。
「ここに決めます」
そう告げると、二人は視線を交わした。

「あの……」
言い淀んだあと、担当が言った。
「本当に、ここでいいですか」
「ほかにも物件はあります」

理由は言わない。引き止めたい、という気配だけが伝わる。私はそれを、構造上の欠点か何かだろうと解釈した。条件の良さがすべてを上回っていた。契約書にサインした。

入居して数日は、何もなかった。

五日目の夜、シャワーを浴びて出ると、閉めていたはずのカーテンが片側だけ全開になっていた。窓には触れていない。風もない。外の夜気だけが、部屋に入り込んでいた。

別の日、深夜にテレビを見ていると、背中のあたりで、くぐもった男の声がした。
「おい」

振り返っても、誰もいない。音も続かない。ただ、壁の木目が歪んで見えた。

数週間後、帰宅すると、彼氏との写真立てが床に落ちていた。割れてはいない。だが、表を伏せるように、きれいに裏返っていた。
その二ヶ月後、彼氏から別れを告げられた。理由ははっきりしない。本人もよくわかっていない様子だった。

友人を泊めた夜があった。午前三時頃、突然「帰る」と叫び出した。震える声で言う。
「男に首を絞められた。目が、変だった」

同じことが、その後も起きた。別の友人三人。互いに面識はない。全員が、同じ時間帯に、同じような男の話をした。

近隣から通報が入ったこともある。
「男の叫び声がする」
警察が来たが、部屋には私一人だった。同じ理由で、三度。

母が厄除けのお札を送ってきた。壁に貼った数日後、紙の一部が焦げたように黒くなっていた。火の気はない。
それを見た友人が言った。
「ここ、出たほうがいい」

その友人は、数ヶ月後に亡くなった。

ある夜、壁から黒い煙のようなものが、ゆっくりと滲むのを見た。すぐに消えた。
耳元で、あの声がした。
「おい」

それ以上は聞き取れなかった。

やがて、眠れなくなった。幻聴のような怒鳴り声が、昼夜を問わず続いた。飲んだことのない酒を買い込み、気づけば空き瓶が増えていた。
次に意識を失った時、私は玄関の外で倒れていたらしい。
「運ばれた時、呼吸は止まっていましたよ」
病院で、医師がそう言った。

一ヶ月入院し、退院後すぐに引っ越した。

荷物を運んでくれた友人の車は、その後、事故を起こした。

不動産屋に事情を話すと、担当は黙って聞き、うなずいた。
「家賃は一ヶ月分で結構です。修繕費もいりません」

それ以上、何も言わなかった。

お寺でお祓いを受けた時、住職は私の顔を見て、短く言った。
「言葉にできないものを、連れて来られましたね」

今は、普通の暮らしをしている。

けれど、世田谷区若林、あのマンションの四階の一番奥。
あの部屋を思い出すと、いまでも背中の奥がざらつく。

あそこには、何かがいた。
それが何かは、今も言葉にできない。

[出典:239 :本当にあった怖い名無し:2015/03/26(木) 16:47:41.94 ID:FBcOQoNx0.net]

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