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おぶってきたご先祖さま r+1548

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これは、ある女性歌手(仮名:美咲)が子どもの頃、夏の終わりのように蒸し暑い夜に体験したという不思議な話だ。

美咲の生まれ育った場所は、山に囲まれた小さな集落だった。

夏の昼間には、蝉の声がどこまでも続き、夜には深い闇の中に蛙の鳴き声が響き渡る。その村の風習として、お盆の期間には一族が集まり、墓の前でご先祖様を「おんぶ」して家に連れて帰るという儀式が行われていた。

ご先祖様を墓から迎え、仏壇の前に「おろす」という、家族全員で行う大切な行事であり、村の者にとってはご先祖様とのつながりを感じる一夜だった。

美咲が小学校低学年の夏、その儀式の役目が回ってきた。毎年、集まった親戚の中で一番年少者が提灯を持って墓の前に立ち、霊を「おぶって」家まで連れて帰るのが決まりだった。

幼い彼女はその夜、大人たちから何度も「大丈夫だよ、ご先祖様がちゃんと守ってくださるから」と言い聞かされたが、胸の中の不安はどうにも消えない。暗い夜道を一人で歩き、あの古い墓石の前に立つことを想像するだけで背筋が寒くなるような気がした。

夜が更け、家の中が静まり返った頃、ついにその時がやってきた。

古びた木の提灯に火が灯され、美咲は震える手でそれを握りしめた。まだ子どもの手には少し大きすぎる提灯で、手元で揺れるろうそくの火が頼りなさそうにゆらゆらと揺れている。

家を出てしばらく歩くと、周りは完全な闇に包まれた。畑を隔てて続く細い道を進み、やがて一族の墓が見えてくる。その墓は、苔むした石に囲まれ、長年の風雨で黒ずんでいた。まるでその場所だけ時間が止まっているかのような、不気味な佇まいだった。

その場所に近づくにつれ、心臓の鼓動がどんどん早まる。足元に広がる影がまるで何かがうごめいているかのように思えて、彼女は怖くてたまらなかった。それでも「役目」を果たさなければならないと、幼いながらも覚悟を決め、墓の前にしゃがんで静かに目を閉じた。

「ご先祖様、どうぞ私の背中にお乗りください……」

小さく呟いて、背中にわずかに力を入れる。何も感じないはずなのに、肩や首筋にじわりとした冷気が染み込むような気がした。その瞬間、目の前の提灯の火がふっと消えた。わずかな灯りすら失われ、辺りは完全な闇に包まれる。あたりは静寂に包まれていたが、その静寂が何かの気配で満たされているように感じた。

彼女の目は、恐怖でいっぱいだった。背後に広がる墓石から、何かが彼女を見つめているような気がする。息を呑んだまま、彼女は一歩も動けなかった。しかし、長くその場に留まることもできず、恐怖に耐えきれなくなってその場から逃げ出してしまった。

途中で足を取られ、転びそうになりながらもなんとか家へと戻った。家の玄関に戻ると、誰もいないことを確認して、仏壇の前まで来て「おぶってきたご先祖様」を下ろすふりをした。息を整えて、ぎこちなくも儀式を終えたつもりだった。

やがて美咲が戻ったことを知った親戚たちは、すぐに食事会の準備に取り掛かった。仏壇の前に座り、何事もなかったかのようにご先祖様の霊を迎え入れた。親戚たちは酒を酌み交わし、賑やかな宴が始まった。笑い声や話し声が響き、村の小さな家に一族が集まって祝う様子がいつも通り広がっていく。

しかし、美咲の心の中ではまだ先ほどの出来事が薄れず、提灯の火が消えた瞬間の冷たい空気が背筋を撫でるように残っていた。どこか心が落ち着かないまま、仏壇の前に腰掛けていた祖母の様子を見つめていた。

宴もたけなわとなり、家の中が一段と賑わい始めたその時、祖母がふと静かに「今年はご先祖様、帰って来ないね」とつぶやいたのが聞こえた。その声は、まるで何かが足りないと気づいたかのような寂しさが滲んでいた。

彼女の背中に何が乗っていたのか、そもそも何も乗っていなかったのか、それとも…。

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