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なろうと思った rw+5,031-0211

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中学からの友人で、高校生活を共に駆け抜けた政一の告白を受けたのは、卒業式の夜だった。

壇上で名前を呼ばれ、証書を受け取る自分を見つめる彼の視線が、妙に熱を帯びていることには気づいていた。ただ、その意味を理解したのは、式がすべて終わり、夕暮れに沈んだ校舎の裏庭で二人きりになった時だ。

「好きだ」

その一言で、頭が白くなった。親友だと思っていた相手からの告白。しかも同性の自分が対象だという事実に、感情が追いつかない。拒む以外の選択肢はなかったが、傷つけたくはなかった。できるだけ穏やかな言葉を選び、距離を置きたいと伝えた。

政一は深く追及しなかった。ただ一度だけでいい、と言った。「最後に、デートしてほしい」。その必死さに、断り切れなかった。

映画を観て、ファミレスで食事をした。特別なことは何もない。友人として過ごしてきた時間と変わらない。ただ、帰り際、駅前で彼は立ち止まり、ぽつりと聞いてきた。

「もし俺が女だったら、つき合ってくれた?」

すぐに答えられなかった。政一は県外の大学に進学する。これが本当に最後かもしれない。部活の帰り道、夏祭り、どうでもいい話で笑った日々が、一気に胸に押し寄せた。

「女だったら……つき合うどころか、結婚してたかもな」

自分でも驚くほど、自然に言葉が出た。
政一は泣き笑いのような顔でうなずき、「ありがとう。ごめんな」とだけ言って背を向けた。その背中が小さくなるまで、見送った。

それきり、会っていない。

大学に進んでから、アルバイト先で恵美子と知り合った。明るく、話しやすい女性だった。彼女から告白され、流れで付き合い始めた。

奇妙だと思ったのは、彼女の口癖だった。

「ああ、女に生まれてよかった」

何度も繰り返すので理由を尋ねると、笑ってこう言った。
「だって、私が男だったら、恒雄はつき合ってくれなかったでしょ」

胸の奥が、ひやりと冷えた。
その言葉を交わした場所が、政一と別れたあの駅前だったことにも。

偶然だと思い込もうとした。だが次第に、違和感が積み重なっていく。笑い方、食べ物の好み、映画の選び方、本の読み方。ひとつひとつは些細だが、重なるたびに既視感が濃くなった。

違う。そう何度も否定した。
恵美子には家族がいて、過去があり、写真も記録も揃っている。背丈も声も違う。ただ、似ているだけだ。

決定的だったのは、彼女の部屋で映画を観ていた夜だ。

「懐かしいね。最初のデートで観たよね」

それは政一と観た映画だった。恵美子とは一度も観ていない。否定すると、彼女は不思議そうな顔で、その日の細部を語り始めた。売店でホットドッグのケチャップをこぼしたこと。釣り銭を間違えられて得をしたこと。

すべて、記憶と一致していた。

その夜、逃げるように帰った。
それ以降、彼女を正面から見られなくなった。別れを切り出した時、恵美子は泣き、取り乱し、やがて自分の手首を切った。血に濡れた手でこちらを掴み、叫んだ。

「結婚するって言ったじゃん。だから、この女になろうと思ったんじゃん」

その瞬間、政一の顔が重なった。
駅前で、背を向けたあの夜の姿が。

恐怖に耐えきれず、仕事も住まいも捨てた。誰にも行き先を告げず、連絡を断った。

それでも終わっていない。
夜道で足音を聞くたび、背後の気配に立ち止まるたび、あの声を思い出す。

「もし、俺が女だったら……」

あの問いに、答えてしまったこと。
それが、まだ続いている。

(了)

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