遠い昔の話ではない。
ふもとの村を離れ、山中の小屋でひっそり暮らす夫婦がいた。病気がちだった妻の体を案じ、薬効があるという温泉の近くで暮らすためだったらしい。
小屋の周囲に、いつの頃からか猿が姿を見せるようになった。餌付けをした覚えはない。それでも猿たちは人を警戒せず、小屋の近くに居ついた。追い払うこともなく、かといって親しむこともなく、夫婦は猿の気配を生活の一部として受け入れていた。
妻の体調は目に見えて良くなり、やがて山仕事に出られるほどになった。ほどなくして、妻は身ごもった。
臨月の夜、陣痛が始まった。梁に荒縄を縛り、立ったまま身体を預ける。山では珍しいことではなかった。部屋の中には、いつの間に入り込んだのか、何頭もの猿がいた。声も立てず、じっと妻の様子を見ている。
痛みが極まったとき、赤ん坊の頭がのぞいた。
その瞬間、一頭の猿が近づき、妻の股間に伸ばした手で、そこから出てきたものを掴んだ。引き出されるようにして、赤ん坊は床に落ちた。
甲高い声があがった。どの声だったのか、妻には分からない。猿たちが一斉に騒ぎ始め、部屋はざわめきに満ちた。
妻はその場に崩れ落ち、息を整えながら、次に起こるはずのことを待っていた。音に埋もれて、何かが泣いているようにも聞こえた。
やがて騒ぎは静まり、気配だけが残った。妻が顔を上げたとき、部屋にいたのは猿だけだった。
床には、何も残っていなかった。
猿たちは血に濡れた顔と手のまま、胎盤ごと持ち去り、山の闇へ消えていった。
[出典:351 :全裸隊 ◆CH99uyNUDE :2005/05/08(日) 09:07:17 ID:+rB4sGPS0]