短編 山にまつわる怖い話

ミヤマの木~かたっぽだけの長靴【ゆっくり朗読】1500

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小学三、四年生頃の話。

地元の子供たちは、夏休みは毎年家の裏の林でクワガタ取りをするのが恒例だった。

クワガタ取りはいつもは友達といくんだけど、

前日に探索した際、でかいミヤマクワガタが取れるスポットを見つけたので、

ミヤマ独占をもくろんで、その日は一人で林に出かけた。

『ミヤマの木』にたどりついた俺は一心不乱にミヤマを取っていた。

すると後ろから「なにしてるの~」と女の声がした。

俺はとっさに隠れた。

いつだったか、雪を集めてかまくらを作るのがめんどくさくなり、排雪場に捨てられた雪を直接真下に掘り進み、ありの巣状の巨大かまくらを作った事を思い出す。

家からコタツを持ち出そうとした所「死ぬ気か!」とオヤジにしこたま殴られ、俺の巣が一夜にして壊されたた苦い記憶が蘇る。

『ミヤマの木』は急斜面に位置しておりかなり危険な場所なのだ。

大人に見つかれば二度と来れなくなる。

当時大人は俺にとって遊び場を奪う忌むべき敵だった。

そっと様子を伺っていると、女が走り寄ってきた。

見つかってから隠れたので無理もない。

小学校高学年くらいの女の子だった。

「なにしてんの?」

「虫とってる」

「もっと面白いとこあるよ」

「どこ?」

「あっち。底なし沼超えた向こう」

底なし沼は緑色の気味の悪い沼で、錆びた自転車やら、ポリバケツなどが散乱していて、沼の真ん中には『かたっぽだけの長靴』があった。

沼にはまったが最後、生きて出てこれないとか、隣町の子が沼にはまってそれ以来沼から助けを呼ぶ声がするだとか、噂の絶えない場所で誰も近寄りたがらなかった。

沼の向こうは誰も見た事のない異世界だった。

「よし!いこう!」

恐怖心もあったが、なにより沼の先が見てみたい。

気味悪いが、少なくとも『底なし』でない事は確認済だ。

『かたっぽだけの長靴』は、俺のだからだ。

沼超えは困難を極めた。

沼の真ん中を突っ切ったほうが早いが、長靴ではないため、沼のふちを歩いた。

とはいえ足を取られないようにぬかるんだ地面を歩くのは体力がいる。

ミヤマ用に持ってきたビン詰めのハチミツの重さが恨めしい。

沼超えにハチミツはいらない。

虫にも悩まされた。

ハチミツに寄ってくるのだ。

いっそ捨ててしまいたかったが、俺の朝食のホットケーキにも使うので無理だ。

そして何より女がどんくさかった。

謎の小虫が飛びかっている場所があり、俺はダッシュで駆け抜けようとした。

その時後ろで「へぁん!」と情けない声がした。

無視してしまいたかったが思いとどまった。

「そこ、飛び越えられないよぉ」

「支えてやるから飛べ!」

一刻も早く小虫スポットから抜け出したいのになんてざまだ。

俺は小虫スポットに飛び込み、通り抜ける事も出来ず、小虫スポットで女を待つハメになった。

ハチミツを持っているので不快指数は200%だ。

「ごめん。ありがとう」

「来る時どうやってきたのさ」

「え?あっち側。あっち側は道あるんだよ」

女は沼の対岸を指差して言った。

……何をいってるんだこの女……

そんなこんなで、ハエやらアブやら謎の虫にたかられながら道なき道を進み、とうとう俺は沼越えを果たした。

沼を越え先へ進むと細い道が現れ、さらに進むと開けた場所に出た。

トラックやショベルカー、クレーンなどが無造作に置いてあった。

人気が全くない。建物も一つもない。

周りはうっそうとした木に覆われ、ここに至る道は自分が歩いてきた小道しかなさそうだった。

トラックはどうやってここに持ってきたんだろ。

「ヘンな場所でしょ?うちの秘密基地」

トラックの荷台にはお菓子の袋が散乱していた。

「いつもここで食べるんだ。他の人呼んだの初めてだ」

無造作に置かれてる乗り物には違和感があったが、あまりに静かで誰にも知られてない場所という感じがしてワクワクした。

その後はトラックの運転席に乗ってドライブごっこしたり、俺がとったクワガタを戦わせたりして遊んだ。

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やがて日が沈み始めたので帰る事にした。

「そろそろ帰るよ。またきていい?」

「いいよ。さっきの木まで送るよ」

帰りは来た時とは逆ルート、道のあるルートで帰った。

めっちゃ快適だった。

「んじゃね」

「バイバ~イ。うち、休み中はこのヘンうろうろしてるからぁ」

あとは勝手知ったる道だ。

林の出口に差し掛かる時、男の声が聞こえた。

振り返ると我が家の向かいに住むおじさんがいた。

血相変えて走り寄ってきた。

「なにやってたの!」

「え?ごめん」

「心配したんだよ! お~い!いたぞー!」

何がなにやらわからない。

家の方を見ると大人達が表に出て、なにやら騒然としている。

「何時だと思ってるんだ!」

オヤジから、しこたま怒られた。

母は泣いていた。

そんな遅くなったかなあ……??

「今までどこいたんだ!」とオヤジは怒鳴る。

あたりを見渡すと真っ暗だった。

さっきまで明るかったのに……

ど深夜だった。

俺は深夜二時頃、林からふらっと帰ってきてたんだ。

両親は夕飯になっても俺が戻らないので、ほうぼう探し回ったが見つからず。

ご近所さん総動員で林の中を今まで探し回っていたという。

そんなはずない。さっきまで明るかったはずだ。

こんな深夜に懐中電灯もなしに歩き回れるはずない。

女ともさっき別れたばかりだ。

……いろいろ事情を説明したが取り合ってもらえない。

訳がわかんないままうやむやにされた。

もう一つ腑に落ちない事がある。

林を探していたのは友達の小野寺君の証言があったからだそうだ。

話によると、俺と林に入り、昼まで遊び、飯を食いに一旦家に帰った。

俺は『ハラ減ってないからここでクワガタ取ってる』と言って、残っていたそうだ。

昼食を食べ、もう一度戻ると俺の姿が見えない。仕方ないので帰ったとの事。

……知らん知らん!そんな事。

もともとミヤマスポットバレたくないから、俺一人で出かけたのに……

後日もう一度林にいってみた。沼越えはできたが、そっから先がわからなくなっていた。

結局あの女の子とは一度も会えなかった。

俺は深夜まで明かりもなしに昼以降、ずっと一人でいた事になる。

何してたんだよ俺……

228 本当にあった怖い名無し 2006/10/15(日) 14:02:53 ID:riE1mh4y0

(了)

[出典:http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1154329165]

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