短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

河合さん【ゆっくり朗読】5600

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二十年近く前、まだ私が中学生だった頃の事です。

原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「匿名さん」 2010/10/15 01:14

当時、親戚のおばさんで河合さんという方がいました。

小さい頃は気さくでよく喋る方だったのですが、旦那さんが病気で亡くなってからは性格が変わってしまい、塞ぎ込みがちになっているそうです。

ある日の夜、確か夜の八時半頃だと思います。

部活のバスケの練習が終わりに差し掛かった頃、学校の体育館の玄関口に、河合さんがやって来ました。

とりあえず、私は「あれは親戚の人です」と顧問の先生に言うと、顧問の先生は会釈しながら玄関まで向かい、河合さんと何やら喋っていました。

顧問の先生が戻ってきて、深刻そうな顔で

「道子、おまえのお父さんが、交通事故に遭ったらしい……」

「え?そんな……」

「あの親戚の方、車で迎えに来たそうだから、一緒に帰りなさい」

私はもう何年も河合さんと会ってすらいませんでしたが、記憶には充分残っていましたので、本人には間違いありません。

気が動転しつつ、河合さんの車に乗り込みました。

車が出発した後、夜道を走りながら、私のほうから河合さんへ色々聞きました。

「お父さん今どこにいるんですか?」

「病院」

「どこの病院なんですか?」

「ここから少し行ったところ」

「どんな状態なんですか?」

「よくわからない」

なんだか素っ気ない返事ばかりです。

車はちゃんと運転してましたが、感情失せて心ここにあらずという表情でした。

しばらく走っていると、段々不審に思えてきました。

どんどん郊外のほうに走っているのです。

主立った病院は全部市内にあるし、私の住んでいる市は山間に全部集中しているような所で、山に一旦入ると、隣の市街地までは相当距離があります。

こちらから話し掛けても、素っ気なく短い答えが来るだけだし、昔の話を切り出そうとしても、「そう……」とつまらなそうに反応するだけ。

この、隣で運転しているおばさんは本当に河合さんなの?とすら思えてきました。

その内、市道が寂しくなるあたりまで差し掛かりました。

これを過ぎると、もう店らしい店すら無くなり、民家が山間にポツポツとある程度です。

まだ開いて照明の灯っていたホームセンターの前辺りで、

「部活の用事思い出したので、先生に電話してきます」

と、私は強引に車から降りて、ホームセンターの中まで入りました。

窓からばれないようにこっそり外を見ると、河合さんが駐車場へ車を止めて、ゆっくり店へ歩いてくるのが見えました。

何か嫌な予感がし、私は大急ぎで反対側出口から出て猛ダッシュ。

運良く道路に通りがかったタクシーを捕まえて、自宅を告げて家に帰りました。

家に着いてから母親にタクシー代を払って貰い、玄関から入ると、父親が普通に茶の間で座り、ビール飲んでTVを見てました。

「なんだ息を切らして?」

私のほうを見て呑気そうに言ってきました。

事情を説明すると、父親の顔がだんだん厳しい表情になってきました。

河合さんとは、旦那さんが亡くなった後は神経系の病院に通っているらしく、少々言動もおかしくなってきたたため、もう何年も交流がないそうです。

子供もおらず一人だけ残された河合さんは、精神的に疲れたのだろうと父親は言っていました。

まず、河合さんの自宅アパートまで電話……

誰も出ません。(当時、携帯電話はあまりポピュラーではありませんでした)

河合さんの実家に電話し、河合さんの母親(私から見たら、祖母の妹さん)に出来事を話しました。

すると……二日前からパート先を無断欠勤していて、連絡が来ていたとのこと。

そろそろ向こうからも連絡しようと思っていた所だったそうです。

河合さんがあんな状態で交流なくなったを知っているため、遠慮して連絡が遅くなったらしいです。

翌日、警察に捜索を届けて調べて貰いましたが、河合さんの部屋からは財布以外、これといった貴重品も持ち出しておらず、車と本人の行方が全く判らない状態ということが判りました。

ただ、部屋には女性の割にはお酒の空瓶が多く、神経系の処方薬が何種類かあったそうです。

20年経過しましたが、おばさんの河合さんは未だに行方が判っていません。

恐らく、私がホームセンターの窓越しに目撃したのが最後だと思います。

長い間行方不明のため、法律上も失踪扱いになりました。

もしあの日、私が車に乗せられるがまま付いていってたら、どうなっていたか……

そして、私はどこに連れて行かれようとしていたのか……

(了)

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