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短編

イカの群れ

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親父が酒の席で怖い話となると毎回話す体験談をひとつ。

2015/06/13(土) 20:06:38.42 ID:ZdsK0XGH0.net

今から二十五年ほど前、親父が三十代前半の頃の話。

親父はヨットが趣味なんだが、当時はまだ自分のヨットを持っておらず、友人のヨットに乗せてもらうのが休日の楽しみだった。

ゴールデンウィークで一週間以上仕事が休みになり、「海に出たいな~」と思っていたら、タイミングよく会社のヨット仲間の平岡さんがクルージングに誘ってきた。

平岡さんは、かなりの上役で、部署も違うし年齢も五十代と親父とはかなり離れているが、趣味が同じで気も合うので、しょっちゅう一緒に飲みに行く仲だった。

自前のン百万もする大きなヨットを持っており、当時は俺の家と家族ぐるみで付き合いがあったので、クルージングに誘われて一家で同行することもたびたびあった。

平岡さんの誘いは家族と一緒にちょっと遠出のクルージングに来ないかとのものだったが、あいにく俺とオカンは、オカンの友人一家とキャンプに行く予定が有り、家族全員での参加は日程的に難しかった。

平岡さんの家族も用事で参加できないらしく、親父と平岡さんが「さすがに男二人だけで行くのもつまらんしなぁ」などと話し合っていると、親父の後輩でヨット仲間の一人の石原さんが、「よかったら、友人と参加してもいいですか」と会話に入ってきた。

石原さんは高校時代からヨットをやっており、社会人になってすぐにローン組んで、自分のヨットを購入した筋金入りのヨット好きだが、活動がレース中心の人で、ぶらぶらとクルージングしてるのが好きな親父達とはあまり一緒に活動することがない。

ただ、ちょうど友人二人に海釣りをやりたいから船出してくれと頼まれて困っていた所とのことだった。


 

石原さんの所有しているヨットはレース用の少人数が乗ることを想定した小型のもので、あまり快適とは言い難いし、素人二人連れて自分一人が操縦するとなると正直疲れるので、便乗させてもらえるなら是非とも便乗させて欲しいと頼み込んできた。

平岡さんは、「どうせ他に行く人間も居ないんだから気にせず連れて来い」と快諾し、早速三人でスケジュールを練り、最終的な目的地は小豆島で、道中平岡さんが知っている釣りポイントに寄り道するという感じで航路を決め、酒とつまみ大量に買い込んで出航となった。

クルージング中の天気は週間予報でも快晴続きで、雨の心配は全く無い絶好の航海日和で、釣りも絶好調でヨット航行中はトローリングでハマチとかが面白いように釣れ、平岡さんの知っていたポイントでも大漁で石原さんの友人二人も大喜びだった。

そんなこんなで若干予定よりも早く最終目的地の小豆島に着き、二日ほど観光したり釣りしたりして過ごしたが、皆疲れがたまってきたので、予定よりも一日早く帰途につくこととなった。

まっすぐ帰る予定であったが、順調に進んで来ているし予定よりもかなり早い帰りになってしまったので、以前に平岡さん一家と俺の一家で行った小さな島に寄ってみようという話になった。

俺の記憶だと海の家が二軒ほどあるだけの島だが、停泊できる桟橋もしっかりしており、入り江の水も澄んでいる綺麗なところだった。

島について湾内に入っても全く船が泊まっておらず、どうやら海の家もやっていないようだった。

「あー、まだシーズンやなかったか……」

と平岡さんはかなり残念そうだったが、せっかくなので皆で釣りして、釣った魚で宴会しようという流れになった。

皆で誰も居ない島でそれぞれ適当なポイント探して釣り始めると、これが今まで一番の爆釣れ状態。

うちの親父は堪え性がない性格で全くと言っていいほど釣りに向いてない人間でセンスもゼロだが、そんな親父でもそこそこ釣れるほどで、三時間ほど釣ればクーラーボックスいっぱいになるほどだったそうな。


 

十五時か十六時ぐらいに、ちょっと早目の夕飯を食ってから出航しようという流れとなり、皆が釣った魚を大量に使って豪勢な夕食を作り宴会となった。

皆で酒を飲みながらヨットや釣りの話、仕事や家庭、子供の話で大いに盛り上がったが、酒好きだがそこまで強くない親父は途中からウトウトしてしまったらしく、ハッと気がつくと高かった日が落ちて僅かに水際が光ってるぐらいになっていた。

「しまった!」と飛び起きて見回すと、平岡さん、石原さんがデッキに拵えたテーブルに、グラスを持ったまま突っ伏して寝てる状態で、石原さんの友人二人は船内に入って寝ているようだった。

全員が酔って寝てしまっている状態に親父は苦笑して、「とりあえず平岡さん、石原さんを起こして帰り支度するか」と思い、立ち上がって寝てる二人を揺り起こそうとした時、ヨットの船尾からバシャ、バシャ、バシャと派手な水しぶきが上がった。

驚いた親父が船上から覗いてみると、暗いのでよくわからんが恐らく魚が群れて跳ね回ってるようだった。

小型のライトをつけて照らして確認するとイカの群れだということがわかった。

かなり近い位置でバシャバシャやってるから、備え付けてあるタモで掬えるんじゃないかと思い、船尾に降りてダメ元で群れにタモを突っ込んでみるとすごい重い手ごたえで、引き上げてみると五匹ぐらいイカが入っている。

親父が思わず「おおっ!」と驚きの声をあげると、平岡さん、石原さんも目が覚めたようで、船尾から上がってデッキでドタドタやってる親父のところに寄ってきた。

親父が海水を汲んだバケツにイカを入れなが事情を説明すると、平岡さんは「じゃあ、ワシもやってみるわ」と言い、タモ持って船尾に降りて行った。

親父と石原さんが「アオリイカかな?」などとイカについて喋ってると、ドボン!と大きな水音がした。

まさか!と思い船尾を見ると平岡さんの姿がなく、バシャバシャやってたイカの群れも消えている。

これは身を乗り出しすぎて落ちたな、と思いながらも親父は平岡さんは泳ぎも上手く、波もまったく無いので、すぐに浮き上がって泳いで帰ってくるだろうと思い楽観していたが、平岡さんが浮かび上がってきたのは、なぜかヨットから5m近くも離れた場所で、しかも懸命にもがいていた。

溺れた平岡さんを助けようと親父が反射的に海に飛び込もうとすると、石原さんがすごい力で親父の腕を押さえつけて、怖い顔で「救命用の浮き輪を投げて引っ張りましょう!」と言う。

親父はどう考えても飛び込んだ方が早いと思ったが、普段の冷静な石原さんの様子が何かおかしく、鬼気迫るものがあったので、デッキにある備え付けの救助浮き輪を外し、平岡さんめがけて投げつけた。

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上手く近くに着水した浮き輪を平岡さんが掴んだのを確認して、親父と石原さんは浮き輪に結び付けてるロープを引っ張ったが、平岡さんがこちらに向かって泳いでいるのに、何かに流されてるようで中々思うように引き上げられない。

しかも、平岡さんの周りの波の動きが妙な感じで、なにかが泳ぎまわってるようだった。

石原さんは引っ張りながら大声でヨットの中で寝てる友人二人を呼び、起きたばかりで状況のいまいちわかってないながらも、親父と石原さんの作業を手伝い大の男四人掛りで何とか引き上げに成功した。

親父が「大丈夫ですか!?」と平岡さんに呼びかけると、肩で息をしていた平岡さんが「出すぞ!!!」と周囲に響き渡るような、大声を上げた。

それが合図になったかのか石原さんは物凄い勢いで係留ロープを外し、ほぼ同時に平岡さんがエンジンをかけて、普段の平岡さんからは想像もできない荒い操縦でヨットは桟橋から離れた。

親父には平岡さんを引き上げたあたりからずっと「ンゥゥゥゥ~ゥゥン~ゥゥン…」と、ウシガエルの鳴声のような男の鼻歌のような声が聞こえおり、入り江から出た後もずっと聞こえており、操縦している平岡さんの様子も明らかにおかしく、ただ事ではない事態に巻き込まれたのは間違いない。

平岡さんに何があったのか問いただそうとすると、石原さんが「あかん……追ってきてますわ……」と震えながら言う。

石原さんは平岡さんが落ちた時に、その周囲には人間の子供ぐらい大きさのの異様に白い”なにか”が複数見えたそうだ。

親父が飛び込もうとした時にそいつらは一斉に石原さん、親父の方を向いたが、ライトの光を反射とかそういうレベルじゃなく、目が真っ赤に光っていたと。今は見えないが気配だけは島から離れた今もずっと付いてきている気がすると。

親父が妙な声が聞こえるかと尋ねると無言で首を縦に振った。

石原さんの友人二人も声は聞こえているらしく、石原さんの話を聞いて明らかに狼狽している。

親父も肝が冷えて変な汗が止まらなかった。

石原さんが話し終わると、平岡さんが

「俺には見えんかったけどな……タモの先を何かが引っ張りよったせいで落ちた。気がついたら海の中で、浮き上がろうとすると見えんけど何かが足首や腕にしがみついてきた……」

と苦い顔をして言った。

親父や石原さんの友人二人も、平岡さん、石原さんが冗談を言ってる様には見えず、もう島からはかなり離れており、航路はとりあえず出発したハーバーに向かっているが妙な声がまだ聞こえる。

数分とも数時間とも時間感覚がないまま全員沈黙していたが、ふと考えが親父の頭をよぎった。

その時なぜそんなことを思いついたのかわからないが、捕まえてバケツに入れていたイカを海に逃がそうと思ったらしい。

親父が心の中で「勝手に捕ってすまんかった。許してくれ」と念じながらイカを海に逃がしてやると、しばらくしてずっと続いていた妙な声が急に聞こえなくなった。

全員が同じタイミングで聞こえなくなったらしく皆で顔を見合わせて変な笑いが出た。

その後、深夜過ぎに出発した地元のヨットハーバーに到着し、近くの二十四時間やってる健康ランドに全員なだれ込んで、風呂に入ってようやく生きた心地になった。

その時に平岡さんが「これ見てみ……」と皆に肩や腕を見せてくれたが、三本爪で引っかいたようなミミズ腫れがいたるところにできており、あらためて皆ゾッとしたそうな。

325: 本当にあった怖い名無し 2015/06/13(土) 20:53:12.63 ID:Z76PCS0CO.net
長かったけど、おもしろかったよ、文章が上手だと長文も苦にならないな。
イカと幽霊、怖すぎる。おいてけ堀みたいだ。

(了)

 

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