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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

外でお弁当 nw+

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今日は外で食え。

社長がそう言ったとき、冗談だと思った。だが本気だった。十一月とは思えない陽気で、窓越しの光がやけに白く、社内の蛍光灯よりも強く感じられた。

「今日は温かい。昼は外で食え。全員だ」

外食派は迷わず出ていった。弁当派の俺は、コンビニで買った焼き鳥丼を片手にしばらく立ち尽くした。社内で食う場所はない。追い出された形だ。理由は聞かなかった。聞ける空気でもなかった。

仕方なくビルを出る。ビル街を抜け、車通りの少ない路地へ入ると、急に静かになった。数分歩いた先、住宅街の端に小さな公園を見つけた。整備されたばかりのように見えた。パーゴラの下に木製のテーブルと椅子。塗装は新しく、木目がまだ明るい。遊具スペースでは母親たちが立ち話をし、子どもがブランコを漕いでいる。砂場の砂は均され、芝生も短く刈られていた。

ここなら問題ないと思った。パーゴラの下に腰を下ろし、焼き鳥丼のフィルムをはがす。甘いタレの匂いが立ち上る。箸で一口運ぶと、少し胸焼けしそうな濃さだったが、外気のせいか妙にうまい。風が頬を撫で、遠くで子どもの笑い声が混じる。

二口、三口と食べ進めたときだった。

「外でお弁当ですか。いいですね」

すぐ背後から声がした。低く、くぐもった、年寄りのような声。

心臓が跳ねた。振り返る。誰もいない。パーゴラの柱、芝生、遊具。さっきまで母親たちがいたはずの場所に、誰もいない。ブランコは止まっている。風もないのに。

立ち上がり、周囲を見渡す。

違和感が、少しずつ形を持ちはじめた。

ブランコの赤い塗装は、ひび割れている。鎖は茶色く変色し、砂場には猫の糞がいくつも転がっている。芝生は雑草に埋もれ、パーゴラの天井には枯れた蔓が絡みついていた。さっきまで明るかった木製のテーブルは、黒い染みと無数の傷で覆われ、白く乾いた鳥の糞がこびりついている。

整備された公園など、最初から存在しなかったかのようだった。

手に持った焼き鳥丼を見る。まだ温かい。湯気が立っている。タレの照りも変わらない。味も、さっきと同じだ。だが、周囲だけが古びている。

ガサッ。

遊具の方から音がした。草を踏む音。一定の重さ。子どもでもない。大人でもない。視線を向けるが、姿はない。音だけが近づく。見えない何かが、こちらへ向かってくる。

空気が重くなる。胸が締め付けられる。逃げなければならないと、理屈抜きで分かった。

弁当をテーブルに置いたまま、走った。振り返らなかった。

ビルに戻ると、社内は妙に静かだった。食堂に人影はない。自席にも誰もいない。時計を見る。まだ昼休みのはずだ。

受付の前で息を整えていると、社長が奥から出てきた。

「戻ったのか」

その声は、いつもより低かった。

「あの、公園で……」

言いかけて止まる。社長の視線が、俺の手元に落ちていた。何も持っていないはずなのに。

「弁当は」

「置いてきました」

社長は一瞬、眉を動かした。

「置いてきたのか」

それ以上は聞かなかった。叱られもしない。ただ、静かにうなずいた。

午後、社員たちは順に戻ってきた。誰も公園の話はしない。外で何を食べたかも話題にしない。俺が「どこで食べました」と聞こうとすると、なぜか言葉が出なくなる。

その日の夕方、スマホを開いた。地図アプリに、昼に立ち寄った公園の位置情報が記録されているはずだった。だが表示されているのは、会社の周辺だけだ。歩いたはずの路地も、住宅街もない。履歴には、昼休みの間、一歩も移動していないと出ている。

翌日、試しに同じ方向へ歩いてみた。住宅街はある。だが公園は見つからない。小さな空き地はあった。雑草に覆われ、柵もなく、立ち入り禁止の札が倒れているだけの更地。パーゴラも、遊具もない。

その空き地の中央に、何かが置かれていた。

昨日の焼き鳥丼の容器だった。フィルムは外れ、タレが乾ききっている。箸もそのまま。容器の底には、黒ずんだシミが広がっていた。

俺は近づけなかった。

背後で、声がした。

「外でお弁当ですか。いいですね」

振り返らないまま、分かった。あの声だ。

だが今回は、くぐもっていなかった。はっきりと、若い声だった。子どもでも老人でもない、誰のものとも言えない声。

そのとき理解した。

あの昼、整備された公園で弁当を食べていたのは俺だけではなかったのかもしれない。見えていなかっただけで、あの席は最初から誰かの場所だったのかもしれない。

それ以来、昼になると社長は必ず言う。

「今日は外で食え」

理由は聞かない。誰も逆らわない。

社内で弁当を広げる者はいない。

そして、外から戻ってくる社員は、必ず何かを置いてくる。

何を置いてきたのかは、誰も口にしない。

俺も、あの場所にもう一度行く勇気はない。

だが昼休みになると、耳の奥でささやきが聞こえる。

外でお弁当ですか。いいですね。

今度は、俺の声に少し似ている。

[出典:361 :本当にあった怖い名無し 警備員[Lv.3][新芽]:2024/11/21(木) 14:32:23.71ID:eh7nSX310]

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