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一匹分の隙間 rw+1,884-0217

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午前三時。

目が覚めた理由がわからなかった。物音も、風も、雨もない。ただ、頭の奥がざわついていた。

縁側を見ると、五匹が並んでいた。
横一列。背筋を伸ばし、尾も揺らさず、カーテンの向こうを見ている。

待っている、という感じではなかった。
応じている。そんな姿勢だった。

声は、耳ではなく後頭部の奥に触れた。

「……何とかなりませんか」
「……こちらだけでは」
「……そちらからも」

言葉の形だけが残り、意味はすぐに崩れた。
瞬きをした瞬間、五匹は散っていた。何事もなかったように、丸くなり、毛づくろいをし、眠った。

それから数日後、近所の中古物件を見に行った。
築三十年。陽の入る縁側。古いのに、妙に整っている。

気に入ったが、決められなかった。
金の問題よりも、判断がどこか曖昧だった。
自分が欲しいのか、誰かに欲しがられているのか、境目がはっきりしない。

その晩、膝の上のボス猫に言った。

「どう思う」

猫は瞬きもせずにこちらを見たあと、音もなく降りた。
床に着地する直前、視線が一瞬、こちらではなく、こちらの背後を見た。

数日後。

寝ている連れが口を開いた。

「イマ……」
「イマナラ……」

声が高く、ざらついていた。
喉の奥にもう一枚、薄い膜が張りついているような響きだった。

翌朝、連れは何も覚えていなかった。

その日の昼、なぜか物件の前に立っていた。
用事はなかった。だが、立っていた。

不動産屋に電話をすると、別の客が内覧を申し込んだところだと言われた。

「今なら、優先できますよ」

受話器を持つ手が、妙に軽かった。
断る理由を探したが、浮かばなかった。

契約は早かった。
ローンも通り、引っ越しも済んだ。

猫たちはすぐに馴染んだ。
日中は陽の下で眠り、夜になるとまた縁側に並ぶ。

最初の夜、ふと気づいた。

五匹の間に、わずかな隙間がある。
一匹分。

そこに座りたい、と思った。

理由はない。ただ、空いているから。
気づくと、縁側に腰を下ろしていた。

カーテンの向こうは真っ暗だ。
何も見えない。

それでも、誰かがいるとわかる。

声はしない。
だが、合図はある。

胸の奥で、言葉が浮かぶ。

イマナラ。

その瞬間、猫たちの尾が、わずかに揃って動いた。

自分が何を了承したのか、思い出せない。
だが、了承した感触だけが残っている。

朝、縁側に座ったまま目が覚めた。
連れは言った。

「夜中、何かしゃべってたよ」

何を、と聞くと、首をかしげた。

「覚えてないけど……猫に向かって」

猫はただの動物だと思っていた。
今も、そう言い聞かせている。

だが、ときどき思う。

この家を望んだのは、本当にあの五匹だけだったのか。

それとも。

いま縁側に並んでいるのは、六つなのか。

[出典:668 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/11/22(日) 07:59:38.61 ID:5bn8yY2e0.net]

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