午前三時。
目が覚めた理由がわからなかった。物音も、風も、雨もない。ただ、頭の奥がざわついていた。
縁側を見ると、五匹が並んでいた。
横一列。背筋を伸ばし、尾も揺らさず、カーテンの向こうを見ている。
待っている、という感じではなかった。
応じている。そんな姿勢だった。
声は、耳ではなく後頭部の奥に触れた。
「……何とかなりませんか」
「……こちらだけでは」
「……そちらからも」
言葉の形だけが残り、意味はすぐに崩れた。
瞬きをした瞬間、五匹は散っていた。何事もなかったように、丸くなり、毛づくろいをし、眠った。
それから数日後、近所の中古物件を見に行った。
築三十年。陽の入る縁側。古いのに、妙に整っている。
気に入ったが、決められなかった。
金の問題よりも、判断がどこか曖昧だった。
自分が欲しいのか、誰かに欲しがられているのか、境目がはっきりしない。
その晩、膝の上のボス猫に言った。
「どう思う」
猫は瞬きもせずにこちらを見たあと、音もなく降りた。
床に着地する直前、視線が一瞬、こちらではなく、こちらの背後を見た。
数日後。
寝ている連れが口を開いた。
「イマ……」
「イマナラ……」
声が高く、ざらついていた。
喉の奥にもう一枚、薄い膜が張りついているような響きだった。
翌朝、連れは何も覚えていなかった。
その日の昼、なぜか物件の前に立っていた。
用事はなかった。だが、立っていた。
不動産屋に電話をすると、別の客が内覧を申し込んだところだと言われた。
「今なら、優先できますよ」
受話器を持つ手が、妙に軽かった。
断る理由を探したが、浮かばなかった。
契約は早かった。
ローンも通り、引っ越しも済んだ。
猫たちはすぐに馴染んだ。
日中は陽の下で眠り、夜になるとまた縁側に並ぶ。
最初の夜、ふと気づいた。
五匹の間に、わずかな隙間がある。
一匹分。
そこに座りたい、と思った。
理由はない。ただ、空いているから。
気づくと、縁側に腰を下ろしていた。
カーテンの向こうは真っ暗だ。
何も見えない。
それでも、誰かがいるとわかる。
声はしない。
だが、合図はある。
胸の奥で、言葉が浮かぶ。
イマナラ。
その瞬間、猫たちの尾が、わずかに揃って動いた。
自分が何を了承したのか、思い出せない。
だが、了承した感触だけが残っている。
朝、縁側に座ったまま目が覚めた。
連れは言った。
「夜中、何かしゃべってたよ」
何を、と聞くと、首をかしげた。
「覚えてないけど……猫に向かって」
猫はただの動物だと思っていた。
今も、そう言い聞かせている。
だが、ときどき思う。
この家を望んだのは、本当にあの五匹だけだったのか。
それとも。
いま縁側に並んでいるのは、六つなのか。
[出典:668 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/11/22(日) 07:59:38.61 ID:5bn8yY2e0.net]