六〇代の父の話を思い出したので書きます。
2012/12/21(金) 21:14:22.76 ID:7hw3/1GB0
父は生まれてからずっと北海道民。
大学だけ、親元離れて憧れの京都で下宿住まい。
そこの下宿先のオヤジさんのことが、父は大好きだった。
知らない土地でひとりの生活、親以外で初めて身近に接する大人。
オヤジさんはお酒と話好きの、くだけた感じの人で、北の田舎から出てきた父にいろんな事を教えてくれた……いい事も、悪い事もいっぱい。
そのお陰もあって楽しい大学生活で、京都時代は大切な思い出になった。恩人だね。
で、無事に卒業して北海道で就職したんだが、だらしない所のあった父。
手紙のひとつも書こう書こうと思いながら、日々の忙しさにかまけて何もせず放置してしまった。
何年も経つとさすがに気まずくなり、悪いと思いながらそのまま音信不通に。
この話を聞いた時、父は五〇代半ば。つまり後悔しながら三〇年以上経っていた。
当時、会社を経営しててけっこう苦しかった筈。
京都には出張で何回か行っていた。
その度に思い出すけど、今更どうしていいかもわからなかったと。
そんな一泊の京都出張のある日
取引先の都合で、午後の予定がぽっかり空いた。
初めて、行ってみようか、と思えた。
しかし三〇年以上前のこと、電話番号どころか正確な住所もわからず。
けど、とにかく行って、町の空気だけでも吸ってこようと。
着いてみればさすがは古都で、町は思ったほど変わってなかった。
懐かしい道を記憶を頼りに歩くと、下宿の建物はそこにあった。表札の苗字も同じ……
勇気を出してインターホンを押した。女性が出た。
怪しまれる覚悟で、道々考えていた説明を一気に話した。
「突然の訪問で申し訳ありません。実は、三〇年ほど前にこちらの徳大寺さんのお宅で下宿のお世話になっておりました、稲荷山という者です。もしも当時をお分かりの方がいらっしゃいましたら、少しでいいのでお話をさせて頂きたいのですが……」
そしたらインターホン越しの女の人が
「……稲荷山さん!?」って。
ドアが開いた。
下宿の奥さんご本人だった。
すっかり年取ってはいたけど、懐かしい顔。
よく来たねえって、感極まった様子。
父の事も当たり前に覚えていたそうだ。
父は懐かしくて嬉しくて、もっと早く来るべきだったと思いながら
「あの、オヤジさんは……?」と聞いた。
すると奥さんはにこっとして、ちょっと黙ってから
「あの人ね。今朝方に、亡くなりました」……と。
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長々と書いて申し訳ないけど、話としてはこれだけなんだ。
オヤジさんも事故とかじゃなくて、かなり高齢だったし普通というか、静かな最期とのこと。
父は泣きながらオヤジさんに手を合わせ、不義理を心から詫びて帰ってきたそうだ。
ただの偶然といえばそうなんだ。
でも三〇年以上、たった一日、その日に当たるなんて。
そんな偶然ってあるのかなって……
「お世話になった人が気になったらいつでもいいからすぐに、連絡を入れろ。どんなに時間が経ってもダメということはないんだ。後悔しないように」って言ってたよ。
終わりです。
長いの読んでくれた人ありがとう。
2012/12/21(金) 21:34:45.84 ID:MvekvDOh0
いい話だね。ありがとう。
2012/12/21(金) 21:42:21.58 ID:ncO45uuyO
いいね!いいねー。本当に良い話を聞かせてもらった。
2012/12/21(金) 21:43:25.73 ID:NAUAXxuGO
今朝方なくなったら、その晩か翌日のお通夜……いい話だけど、なんかちょっと盛ってる気がする。
2012/12/21(金) 21:57:32.89 ID:7hw3/1GB0
会社苦しかったから、予算ギリギリの出張で、そのままいればお通夜だったのに出られなかったとは言ってたよ。まあ盛ってるかわからんけど(笑)ただ父ちゃんってオカルト系全否定の人だったんで、そんな話したのが意外だったんだ。
2012/12/22(土) 06:13:59.45 ID:P4SDE2jYO
そうだったのか……疑ってごめんな。
2012/12/22(土) 07:50:38.81 ID:XY16CQD8O
生きてる間に……とか言えばきりがありませんが、せめて一目会えてよかったですね。
私もお父さんは呼ばれたんだと感じました。私も十三年も放置してしまっている恩人に連絡してみようと思います。
いい話を、ありがとう。
(了)