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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

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昭和から平成に移り変わる頃の話。

あの頃、私は地方都市の外れにある、小さな町のさらに片隅で暮らしていた。町自体はそれなりの規模があったが、私たちの住んでいたあたりは田畑が広がり、ぽつりぽつりと家が点在している程度。ひとつの集落と呼べるような範囲に、十数軒の家があるだけだった。

急な転居だったため、物件選びにあまり時間をかけられず、夫の通勤さえ何とかなる距離ならそれでいいか、という軽い気持ちで決めてしまった。が、実際に住んでみると、都会育ちの私にはその土地の空気が肌に合わなかった。

まず、プライバシーという概念が存在しない。玄関の戸が開いていようものなら、近所の人が当たり前のように中まで入ってくるし、家庭内の出来事はすぐさま地域中に知れ渡る。たとえば、誰それの娘が見合いで振られたとか、夫婦喧嘩したとか、果ては誰それが道端で立ちションしていた、などということまで話題にされる始末。

とはいえ、うちのことまで詮索されるのはたまらないと思い、昼間でもカーテンは引きっぱなし、テレビや音楽の音もほとんど聞こえないほどに絞った。表向きには周囲と穏やかに接していたつもりだが、心が落ち着くことはなかった。

そんな生活は一年と少し続いた。細かいことを言えば、その間にも色々と「事件」があったが、それらはここでは割愛する。

今回は、その町を離れる決定打になった出来事について書きたい。

ある日、私は夫と小さな旅行の計画を立てた。どうしてもこの町から一時的にでも離れたくて、無理を言って夫に休みを取ってもらった。初日、二日目は温泉に浸かり、久しぶりに気持ちがほどけるような時間を過ごせたのだが、三日目になって夫に急な仕事が入った。

私は一人で旅を続ける気になれず、帰りはまた今度にしようということで、ふたりで家に戻ることにした。

自宅に着いた瞬間、何かが引っかかった。見た目は普段通りなのに、家具の配置が微妙にずれていたり、しまっていたはずの本が床に転がっていたり……一見すれば「気のせい」と片づけられる違和感。しかし、この土地の人間性を思えば、背中に冷たいものが走った。

部屋を見回りながら掃除をしていると、玄関のドアが開く音がした。時計を見ると、午後の二時。夫が帰ってくるにはあまりにも早い。何事かと玄関に出ると、そこに立っていたのは、二軒隣に住む女性だった。

一瞬、互いに固まった。そして彼女はこう言った。

「まあ、お帰りなさい! 鍵が開いてたから、何かあったのかと思って……。気をつけないとね」

そう早口でまくし立てるように言うと、そそくさと立ち去っていった。

だが、その言い訳はおかしい。私は普段から戸締まりには神経質なほど気を使っていたし、この町ではなおさら注意していた。鍵が開いていたなど、どう考えてもあり得ない。

あのときの家の中の違和感、旅行中の不在、開いた玄関、そして彼女の態度――それらが一本の線で繋がったような気がして、気持ちが悪かった。

それから二週間も経たないうちに、私たちは引っ越した。前の家よりもはるかに狭いアパートだったが、心はずっと穏やかに過ごせた。

今でも思い出すと、あの時の居心地の悪さと不快感が胸の奥に蘇る。

——終わり。

[出典:196 :あなたのうしろに名無しさんが……:2002/10/12 02:29]

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