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《あなたは、どこで気づきましたか》 rw+6,470-0213

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放課後の図書室に、最後まで残ってはいけない理由があると聞いたのは、小学四年のときだった。

最初はただの噂だった。「聞いたら後悔する話がある」と誰かが言い出し、その“誰か”が毎回違っていた。六年生から聞いたという者もいれば、転校していった子が置いていった話だと言う者もいた。共通していたのは、今の担任が詳しいらしい、という一点だけだった。

私は怪談が好きだった。怖い話を集めては、夜に一人で読み返すのが習慣だった。だから、その話を聞いたときも、怖さより先に好奇心が立った。

職員室で担任に尋ねると、先生は一瞬だけ目を伏せた。

「図書室のことは、あまり面白半分で触れないほうがいい」

それだけ言って、書類に視線を落とした。だが、私が食い下がると、先生は小さく息をついた。

「昔、図書室の鍵は外からしかかけられなかった。今は内側からも開けられる。……それだけ覚えておきなさい」

理由は教えてくれなかった。ただ、その日以降、先生が放課後に教室へ残らなくなったことだけは事実だった。

卒業して数年後、同窓会で再会した友人が、あの話の続きだと前置きして語った。

夏休み前のある日、一人の女子生徒が図書室に残っていたという。読書感想文のため、最後まで本を読み切ろうとしていたらしい。閉館時間が過ぎ、警備員が見回りに来た。机の下や棚の間を確認したが、誰もいなかった。窓も施錠され、異常はなかった。だからそのまま、扉を閉め、鍵をかけた。

だが、少女は柱の影にいた。声をかけられても気づかなかったのか、あるいは返事をしなかったのかは分からない。彼女が扉の異変に気づいたときには、もう夕暮れだった。

夏休みのあいだ、図書室は誰も使わない。少女は家に帰らなかった。両親は捜索願を出した。だが、学校は夏季閉鎖中で、図書室が最後に確認されたのは“無人”という記録だけだった。

休み明け、扉が開けられたとき、少女は床に倒れていたという。

そこまでは、ありふれた事故だ。

だが、友人はそこで声を落とした。

「問題は、その本だ」

少女が読んでいた本は、貸出記録に残っていなかった。蔵書印もなかった。だが、棚には確かに戻されていた。警察は証拠として持ち出したが、数日後、なぜか学校へ返却されたという。

本の余白には、鉛筆の文字がびっしりと書かれていた。

閉じ込められたと気づいた瞬間から、意識が途切れるまでの出来事。助けを求める声。喉の渇き。窓の外の色の変化。空腹より先に襲ってきた眠気。夢と現実の境界。呼吸が浅くなる感覚。

それらが、ページの隅、行間、欄外にまで埋め尽くされていた。

だが、不思議なのは、最後の一文だった。

そこには、「犯人を恨む」とも「助けてほしい」とも書かれていなかった。

ただ、こうあったという。

《あなたは、どこで気づきましたか》

友人は、そこまで話してから、私を見た。

「この話、聞いたことあるだろ」

「初めてだ」

そう答えたが、胸の奥がざわついた。私は本当に初めてだったか。担任の目を伏せた瞬間、何かを連想していなかったか。図書室の柱の影を、妙に具体的に思い描けていないか。

「その本、まだあるのか?」

私が問うと、友人は肩をすくめた。

「さあな。噂じゃ、今も棚に戻ってるらしい。でもな、読んだやつはいない。ページを開くと、余白が増えてる気がするって」

「増えてる?」

「最初は数行だったらしい。でも、見るたびに文字が増えてる。閉じ込められた時間が、まだ続いてるみたいに」

私は笑い飛ばそうとした。だが、喉が鳴らなかった。

「お前、読んだのか」

友人は首を振った。

「読んでない。ただ、聞いただけだ」

そのとき、私はようやく理解した。

あの話は、本を読んだ者を呪うのではない。

図書室に誰もいないと“確認した”者でもない。

ただ、「確認した」と信じた者の中に入り込む。

少女を閉じ込めたのは、扉を閉めた警備員かもしれない。だが、本当に閉じ込めたのは、机の下を見て「いない」と判断した誰かだ。

そして、その判断は、今も繰り返されている。

空の教室。無人の部屋。返事のない声。

確認したつもりで、見落とした影。

私は帰宅してから、本棚の前に立った。古い文庫本を手に取り、何気なくページをめくった。余白に、かすれた鉛筆の跡があるような気がした。

もちろん、何も書かれてはいなかった。

だが、ページを閉じる直前、ふと疑問が浮かんだ。

私は、本当に“見た”のか。

それとも、見ていないと決めただけなのか。

この話をここまで読んだあなたは、図書室の棚を思い浮かべたはずだ。

柱の影も。

扉の重さも。

もし、今夜どこかで、誰もいないはずの場所を確認する機会があれば、もう一度だけ考えてほしい。

あなたは、本当に気づいているのか。

それとも――まだ、気づいていないだけなのか。

[出典:269 名前: 本当にあった怖い名無し 2006/08/12(土) 23:52:33 ID:EzfVqt9c0]

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