中編 洒落にならない怖い話

【閲覧注意】篠原【定番・語り継がれる怖い話/ゆっくり朗読】6441

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※注:一部グロテスクな表現が含まれます。気分が悪くなるなど、支障をきたすおそれがありますので、苦手な方は閲覧をお控えください。

平成四年。当時、高校三年生だった僕は、富山の立山というところに住んでいました。

839 本当にあった怖い名無し 2012/08/20(月) 00:22:19.21 ID:asvh4JmB0

桜もほとんどが散り、とても暖かい一日でした。

受験シーズンに入ろうとしていましたが、僕はただダラダラと過ごしていました。

高校を卒業した後、実家の弁当屋の手伝いをすることに決めていたからです。

周りもそんな奴らばっかりでした。

僕の学校はレベルが低く、ガラの悪いのが当たり前みたいな感じでした。僕自身も髪の色は茶色でした。

友達の井上と細川とは中学からの親友でした。

カツアゲみたいなことはしなかったけれどバイクに乗ったり(当時、無免許でした。)、タバコ吸ったりはしていました。
 

「明日、遊びにいかん?」といってきたのは細川からでした。

ちょっと遠くにいかんけ、と。富山には、遊べるほどの場所がほとんどありませんでした。

あってもパチンコくらいです。

「どこに行くが?」と聞くと、細川は「村」と一言いいました。

「なん、実はそこで肝試しやろっかな……って思って。いや、女子とかも誘うし!」

と付け加え、行こう、と言ってきました。

正直、楽しくなさそうだなと思っていましたが。女子もくるなら……

ということでそれに応じました。井上はかなり乗り気でした。

「俺、写るんですもって来る!」みたいなことを言ってたような気がします。

「じゃあ俺、女子誘うわ」といって細川が右足の義足を引きずりながら女子のところに歩いていきました。

細川の右足はひざから下がありません。本人は「バイクで事故った」と言ってました。

結局、集まったのは井上と細川と僕、女子が三人の計六人。電車を乗り継ぎ、二時間くらいかかりました。

「マジで合コンみたい」「やっば楽しくなってきたんやけど」といっていました。

細川がいうには普通の村だけどそこで幽霊がでるらしいのです。

といっても怖さは全然ありませんでした。ただのお楽しみ会のようでした。

村ではほとんどが田んぼですが、ポツリポツリと明かりがついてました。

まさに「田舎」という感じです。いくあても無くただ歩いていました。

遠くから人が話している声も聞こえてきました。

なんかおかしいな、と思い始めたのはそれから五分くらい経ってからでした。

女子が「なんか気持ち悪い」とか「歩きたくない」といい始めました。

なんの冗談だよ、マジでうぜえな、と思っていた僕ですが、だんだんと目眩がしてきました。キーーーンと耳鳴りもしてきています。

このときはまだ余裕がありました。井上は

「幽霊来るって。まじカメラもって来てよかったし」と笑っていたと思います。

ふいに、自分達が歩いているとこがアスファルトから、砂利道に変わったことに気がつきました。

あれ?と思い周囲を見渡します。女子の一人が「どうしたん?」と声をかけてきました。
村の雰囲気がおかしかったのです。

邪気とかそういう意味ではなく、なんとなく古くなっていました。

昭和の村というか、タイムスリップしたみたいでした。

女子もなんか古いよね、といい始め。井上もカメラを撮り始めました。

目をやると酒屋だと思われるところに「キリンビール」とかいてあるポスターも貼ってありました。

その横にはビール瓶とそれを入れる籠が置いてあります。

家からはテレビの音が聞こえてきます。昔の音というか、独特の音楽が流れてきました。
ここまでくるとさすがに不気味になってきて誰からともなく「引き返そう」というようになってきました。

ところが細川は「もう少しだけ進もう。頼むから、もう少しだけ」といってどんどん進んでいきます。

このころから僕は細川に疑問をもつようになりました。

これまで細川は一言もしゃべってないし、適当に歩き回っているはずなのに

「もう少しだけ進もう」と僕たちに言ったりしたり。

あきらかに細川は「目的をもって」行動していました。

ただそれは、今だから考えられることであのときは「なんか怖いな、細川」ぐらいにしか思っていませんでした。

細川は右足を引きずって黙々と進んでいきました。

民家からは「東京ブギウギ」が流れてきていました。

細川の動きがある家の前でピタッと止まりました。

「細川、帰る気なったん?」と女子が聞いてきました。

くるっと細川が僕たちを見回しました。

細川が僕たちを見る目には哀れみが混ざっていました。

井上が「なに?ここが幽霊でるとこ?」と勝手に入って行きます。

女子も入っていきました。それに続いて僕と細川も門をくぐりました。

表札には「篠原」と立て掛けられていました。

その家は他の家と違って電気はついていませんでした。

庭から物音がすることに気付いたのは女子の一人でした。

勝手に入ってたら怒られるな、と思って出ようとすると、細川が「あっちに行こう」と言い出しました。

「ふざけんなや」

井上が細川に向かっていいましたが、女子や細川はすでに物音のする方向に向かっていて、井上も僕もしぶしぶそこに歩を進めました。

そういえば、人に会うのこれがはじめてかも……と思っていましたが、真夜中だしこんなものだろうかと思い、気にしませんでした。

庭を少し歩くと人がいました。

「第一村人発見じゃね?」と井上が僕にいってきます。

あれは幽霊じゃねえだろ、と考えながら細川に尋ねました。

細川の顔が異常でした。

鼻息はフーフーと荒く、汗が傍目からでも分かるほど流れていました。

足が震え始め、次第には歯を鳴らすようになりました。

細川の目線に合わせて頭をスライドさせてもそこには後ろ向きにかがんでいる人がいるだけ。かがんでいる人は古い花柄のワンピースを着ていて、肩にかからないほどのパーマをかけていました。

この人も昭和みたいだな……というのが第一印象でした。

その女の人は右手を振りかざし、そのまま目の前の地面に手刀よろしく右手を振り落としていました。

そして、女の人の向こうにはマンホール四十五個分くらいの穴がぽっかりと開いていました。

正直、明かりもついてなかったので、女の人がなにしているのかわかりませんでした。

穴にもなにがあるのかさっぱりです。

黙々と作業している女の人を後ろから眺めている六人の男女。

隣の家からは、「りんごかわい~や~かわいやり~ん~ご~」とかなんとかと歌っている女の歌手の声。

なんだこれは、と一人で苦笑していると突然女の人の周りが明るくなりました。

その後にパシャっというカメラのシャッター音。

「ああ、まちがって井上がカメラを押しちゃったんだな」と理解する前に僕の頭のなかは目の前の光景に引き付けられました。

女の人の右手には大振のナタがあり、光りでなぜか赤茶色に反射しました。それよりも息を呑んだのは穴の中の光景でした。

一瞬の光りでも僕の目はそれを認識しました。

バラバラの手が、足が、指が、胸が、破れた服が、大きい額縁めがねが、頭皮が、髪の毛が見えました。

それもいくつも。真っ赤な斑点が無数にとびちり、真っ赤な臓器のようなものも見えた気がします。

女の足元には先ほど切ったであろう体が千切れかけで転がっていました。

全身の毛穴が開くような感覚がありました。手が足が震えてきました。

唐突に細川が門に向かって走りだしました。右足がないとは感じさせないほどはやく、ずり、ずりと。

後ろにいた細川がいきなり走り出し、僕は顔を後ろに向けました。

目線が細川に向いていく中、僕の視界は端に女の姿を捉えました。

ゆらりと女は立ちあがって体は小刻みに揺れています。

ぎゃああああぁぁぁぁ

女子の一人が叫んだのが合図になりました。

女は回転切りをするように体を半回転させました。

右手にナタをもって、関係の無い左手も思い切りふり上半身だけをまず回し、次に下半身を動かす歪な動き方で。

ナタは叫んだ女子のこめかみを捕らえました。女の動きに合わせて女子の体も動きます。シュトっという小気味よい音と同時に女子の叫びもぷつりと切れました。

ナタと一体となった女子は不自然な格好でその場に突っ伏しました。

このときには僕や井上や女子は走り出していました。

四人の精一杯の合唱も息ピッタリに重なり合いました。

「えぐっ」と呻き声をだして女子の一人が体は走っているのに頭だけは女に引き寄せられていました。

見ると長い髪の毛をわし掴みにされ引っ張られていました。

僕は顔を前に戻し、走り続けました。

女の子を見殺しにしました。あのときは恐怖が頭のなかを占めていてそれどころではなかったのです。

「やめっ、ああああいいいい!!!」

女子が叫び、泣き出しました。叫び声をあげている途中もシュトン、シュトンとナタを振り落とす音が聞こえてきました。

僕と井上と女子一人の三人は一気に砂利道を駆けていきました。

先頭を走っていた女子が方向を変え、明かりのついている家の戸を叩き「助けてくださいぃ!!」とドンドンと引き戸を叩き始めました。

引き戸を開けようとすると、スーーっと戸が開き、力を入れていたため、女子は多少よろけています。

それでも玄関に転がっていくようにして入っていきました。

僕もその家に入りました。「助けったすっ」と掠れながらも必死に声を出しました。

井上は一瞬足を止め、躊躇っていましたが、別の方向へと走っていきました。

なかの風景も異常でした。オレンジ色の豆電球が上からぶら下がっているだけ。

ちゃぶ台には味噌汁や焼き魚、おひたしが並んでいました。

テレビはサザエさんの家にあるような大きなテレビで、ふすまや座布団もありました。

でも人がいません。そこから人だけが消えたようでした。

僕はそんなこと気にもせず、「誰かっ。誰か」と声を出し続けました。

涙声で鼻水をズルズルとすっていました。僕と女子は顔を見合わせます。

「誰もいない……」一体どうなっているのかわかりませんでした。

ガラガラガラガラ………

心臓が飛び出るのではないかと思いました。

誰かが戸を開けて入ってきました。井上だろうか?それともこの家の人だろうか?と思っていましたが、女子は顔を強張らせてこっちをみています。あの女だ。

反射的に押入れに手をやりました。押入れの中は新聞紙が敷いてあるだけでした。

僕は女子そっちのけでなかに入ります。

それに続いて女子も。すっと閉め、息を殺しました。

その直後ぎしぎし……と足音が聞こえてきました。

脂汗が吹き出てきます。

しばらくぎしぎしと音が鳴り。辺りを探していました。

よく聞くと「ほほほほほっほほほほほほ……」と笑っているような声が聞こえました。

女の人の金きり声のようでした。ドクドクと心臓が高鳴ります。

ふいに、物音がしなくなりました。女の声も聞こえません。

無音になりました。僕は女子の顔をみようと顔を上げました。

「そこかぁ」

シュッと戸が開き、向こうから腕が伸びてきました。

手は血で赤く染まっていました。

その手は女子の首を掴み居間へと引きずり出しました。

「いやああああああああああぁぁああ」と叫ぶ声が聞こえます。

僕は咄嗟に押入れから飛び出しました。

彼女を助けるためではありません。今なら逃げ出せる、と思ったからです。

中腰のまま僕は飛び出しました。女は僕に気付き、「あはっ」と笑い声を出しました。

そこで女の顔を僕はのぞいてしまいました。

顔色は薄い灰色で返り血や電球のオレンジ色で変な抽象画をみているようでした。

唇は不自然な程潤っていて、異常なほど口端を吊り上げていました。

目は明らかに焦点があっておらず、半分白目のようでした。

口からは「ほほほほほ……」と空気の漏れるかのような音をだしています。

女は左手で女子の首を抱え、右手のナタを僕に向かって振り下ろしてきました。

シュト!

目の前に芋虫のようなものがくるくると飛んできました。

なんだあれは、と目をこらすとそれは指でした。

状況が判断できず、それでも逃げようと左手を床についたとき、いつもある左手の小指と薬指がなく、代わりに飛び散った血がありました。

「びゃぁああうううう……」情けない声を出して僕は畳を転げ回りました。

全身の毛が逆立ち、耐え難い苦痛が僕を襲いました。心臓が早鐘をうっています。

それでも僕は左手を押さえながら、必死に玄関に向かいました。

「いやっいやだぁああ!ああああああ!」と必死に叫ぶ声と食器をひっくり返す音を背後に聞きながら僕は玄関を出ました。

誰でもいいから助けてください。自分の血が服につき、涙と汗で顔がグシャグシャになっていました。

来た道を必死に思い出し走りました。

あああああと叫び声を上げていました。

砂利を踏む音がアスファルトに変わっていったのは走り出してしばらくしてからのことでした。

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ここから後は記憶が飛んでいて、次に思い出せるのは病院で目をさましたところからです。

あのとき、通りかかった人が血だらけになりながら泣き喚いている僕を見つけ、近くの労災病院に運んでくれたらしいです。

普段でも家に帰ってこないことは日常茶飯事でしたので、両親は警察に被害届を出しておらず、両親が病院に駆けつけたのは僕が目を覚まして両親の名前と住所を言ってからのことでした。

次第に落ち着いてきた僕は起こったことを医師や両親に話しました。

肝試しをしにここに来たこと。歩いていたら、景色が変わっていったこと。

ナタを持った女が襲い掛かってきたこと、女子三人が見ているかぎりもう死んでしまったこと。

僕がこのことを喋ったことで始めて事件としてみてもらえるようになりました。

しかし、五人のうち、女子三人の遺体は発見されず、行方不明者扱いになってしまいました。

井上の行方もいまだに分かりません。

おそらく女に見つかってしまったのではないかと思います。

しかし、細川だけは、自宅にもどり、今回の事件のことを話さないでいたとのことです。

目を覚ましてから二日後、細川が僕の病室を訪れました。

「小野、お前に話しておきたいことがあるんやけど……」

細川は第一声にこう切り出した後、

「とりあえず、助かってよかった」といいました。

細川のどの言葉がカンに触ったのかはよく分かりませんが、一気に頭に血が上りました。

「おんまえ!なにがよかったじゃボケが!てめえがさそわんけりゃこんなことにならんかじゃこのダボが!」

他にも汚い言葉を細川にぶつけたような気がします。

細川は黙って聞いていて僕が一通り言い終えると「実は」と言い出しました。

ここからは細川がいったことを簡単にまとめたことを書いていきます。

実は細川はあの場所に行くのは二回目だということ。

高校に入る前に地元の先輩に誘われて、社交辞令的な感じでいき、同じように景色が変わり始めたこと。

「篠原」という家に連れて行かれ、同じようにナタを持った女に襲われたこと。

そして先輩の一人が止めようとして腹を切られてしまったこと。

残りの先輩たちと命からがら逃げたこと。

そしてこの肝試しを考えた先輩がこういってきたこと。

「あの女からは絶対に生き延びられない。女は自分を知っている奴らの四肢を少しずつあの世界から奪いに来る。そしていつかは手足の無くなった俺の首を落としに来るだろう」

「ただ、あの女から殺される時間を少しだけ延ばす方法がある。それはあの女の存在を知らない奴にあの女のことを記憶させること」

「女は自分のことを知っている奴らを無差別に殺して回っている。裏を返せば、あの女の存在を一人でも多くの人間に記憶させれば、自分が四肢をもがれる可能性が少なくなる」

「俺は前にも同じ目に会ってあの女の存在を知らされてしまった。俺は少しでも死ぬ可能性を低くするため、お前らにあの女を記憶させた。お前らも少しでも生きたかったら、あの女の存在を他の誰かに知らせてくれ」

そしてその四ヶ月後、細川はバイク事故という形で右足をもがれたこと。

事故にあったときその女が視界の端にみえたこと。

そしてあの女が自分の右足を掴んで笑っていたこと。

そのことに恐怖を覚えた細川は仲間である俺たちにもあの女の存在を知らせようと思ったこと。

僕はただ唖然としていました。

細川は「すまん」と短くいうと席を立ち静かに去っていきました。

外ではウグイスがないていました。

この話は大分むかしの話です。

あのときから僕は今までのことは忘れようと考え、生活してきました。

退院してからなんとか学校にはいこうとしたのですが、休みがちになり、結局、中退という形をとりました。

そのあと、通信制の学校に入り直し、弁当屋を手伝いながら、勉強していました。

一年前僕は階段から落ち、打ち所が悪かったのか左足を骨折しました。

そして階段から落ちるさなか、階段の上から異常な程に唇をつりあがらせたあの女がいました。

入院を余儀なくされた僕は左足にギプスをつけ、通信制の高校の勉強をしていました。

入院してから左足が熱を持ち始めて痛みを持ち始めたため、医師に頼んでギプスを外して診てもらうと僕の左足はすねから下が腐っていました。

切断を余儀なくされました。あの女に左足を持っていかれた。そう思いました。

そして、細川と同じ考えを持つようになりました。

誰かにあの女の存在を教えてやろうと。

ここで「お願い」について話していきたいと思います。

左足と左薬指、中指は僕があの女に「持っていかれた」部位です。

これで僕がどこを切断したかを確認していただけたと思います。

次に、僕はこの話をできるだけ「細かく」「詳しく」書きました。

それは少しでも読者の方々にあのときの描写を想像してもらおうと思ったからです。

つまり、皆さんにもぼくの「あの女についての記憶」を共有してもらい、僕が次に四肢を失う確率を少しでも下げようということです。

本当に、申し訳ありません。

身の保身のためだけに今回書かせていただきました。

しかし、これを書いていて安心している僕もいます。

せめても、ということで、皆さんのところに

あの女が来ることが無いように

祈っています………

(了)

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