短編 山にまつわる怖い話

おじさん【ゆっくり朗読】2945

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数年前の夏、バイクでG県のK川に釣りへ出かけた。

146 :04/01/23 15:21

土手を走りながらポイントを探して、いいポイントを見つけたのだが、
土手は急で鬱蒼とした薮に阻まれ、辿り着くには、更に進んだところから降りて戻るしかなかった。

ポイント迄、巨大な岩に阻まれ何度も後戻りしながらも、辿り着いた。

絶好のポイント!僕は釣りに没頭し、日暮れかけているのも気付かなかった。

辺りは真っ暗。さて帰るかと思ったが、困った。真っ暗で何も見えない。

後ろを見ると、おじさんが一人夜釣りをしてる。

「釣れますか?」と尋ねると、「今日はだめやぁ。もう帰るわ」。

しめた!このおじさんに付いて行けば、土手の上に出られる。

帰り支度を素早く済まし、おじさんに訳を話し、後に続いた。

しかし、このおじさん、歩くのがもの凄く早い。

必死についていったが、やがて見失った。

おろおろしてる僕に、「おーい。こっちだぁ」とおじさんの声。

助かったぁと声の方へ。

しかし、おじさんの姿はない。

「こっちだぁ」と再びおじさん。

どうやらその声は、土手の薮の中から聞こえる。

最初に降りた場所より、遥かに及ばない所だ。

近道なのかな。と声のする方へ、僕は急な土手を上っていった。

しかし、そこは道というにはあまりにお粗末な道。

ふと静かなのに不安を感じ、「おじさん」と問いかけると、
「こっちだこっちだ。はやくしろぉ」とおじさんの声。

ほっとして進むが、あまりに道が酷いので思わず尋ねた。

「おじさん、ここから本当に上に出られるの?」
……
?返事がない。

「おじさん?いるの?」

「ああ、こっちだぁ」

「この道で出られるんだね?」
……
「おじさん、この道でいいんだね?」

「そうだぁ。はやく来いぃ」

「もう土手の上に、いるの?」
……
「おじさん!?」

「はやく、こぉぉ~いぃぃ」

間延びした嫌な声…何か変だ…

「土手の上に出れられるのか」と尋ねると口を閉ざす。

人が通ったにしては草が倒れていない。蜘蛛の巣にもひっかかる。

嫌なものを感じた僕は、急に恐ろしくなって転がるように土手を降りた。

すると「ちっ」。上の方で舌打ちが聞こえた。

僕は背筋の凍る思いで、とにかくがむしゃらに走った。

何とかここへ来たとき降りた場所に辿り着き、急いで駆け上がり、バイクに乗り来た道を帰った。

土手の上を走るバイクの軽快な音。

もう大丈夫とほっとして、なにげなく薮の方を見降ろした僕が見たものは、
薮の合間にある無縁仏と、その脇でこっちを睨んでいるおじさんの姿だった。

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