短編 山にまつわる怖い話

土まみれの男【ゆっくり朗読】900

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登山が趣味の叔父が、懇意にしている人から昔聞いた話ね

259 :1/3:2022/04/20(水) 22:26:54.45 ID:6IYzsthN0.net

その人は登山口で土産物屋をやってたんだけど
おにぎりとかも売ってたから夜明けとともに登ろうとする登山客のために夜明け前から店を開けてた
その日も店の前で団体さんがその時を待ってたんだけど彼らが急にざわつきだして
何事だろうと思って自分も店前に出て行った
みんなの視線の先には土まみれの男が山から下りてきていた
それだけでも異常なんだけどその男は誰かを背負っている様子だった
誰も言葉を無くして動けなかったんだけどその男は店の前まで歩いてくると力尽きて倒れてしまった
それでみんな正気に戻って救急車を呼んで二人を介抱したんだけど
負ぶっていた男の方は気絶していただけだったけれど
負ぶわれていた男の方は全身を骨折していて腐敗臭もひどくだいぶ前に死んだようだった
だから事故で死んだ友人を置いていくのが忍びなくて背負って下りてきたんだろうって話になった
子供や軽い女性を背負って歩くのも実際はかなり大変で同体格の男性ならばその比ではない
その上、足元が定かでない山道、それも夜
登山経験者ならその困難さがありありと理解できて彼に畏敬の念を持った
やがて救急車が到着し救急隊員が応急処置をしていると彼が意識を取り戻して言った
「友人が縄場で落ちて谷に落ちてしまったんです。助けに行ってください」
もう一人いるのか、ってことで登山客や青年団から有志を募ってすぐに救助に向かった
叔父が懇意にしていた人も店を他の人に任せて参加した
一か所しかない縄場に着いて慣れた人が下りて行き
しばらくして転落したであろう場所は見つけたんだけど肝心の転落した人が見つからない
落ちた距離を考えると五体無事だとはとても思えないんだけどその体で山中を彷徨っているらしい
結局、見つからないまま日暮れを迎えてしまいその日の捜索は打ち切られた

それで病院の彼により詳しい話を聞きに行った
彼は全身疲労で動けなかったが頭の方ははっきりしていた
報告を受けて落ち込んでいたが彼の捜査のためなら是非にと言ってくれた
それによると
昨日の午後三時ごろ、例の縄場で友人が落ちていった
谷底に向けて何度も友人の名を叫んだが全く返事がない
どうにか下りていける場所を探していたが見つからなかった
その内、薄暗くなってきてしまったので
このままここにいるより麓まで下りて応援を呼んだ方が早いと判断して山を下ることにした
捜索隊のメンバーから疑問の声が飛んだ
縄場から麓まで何事もなければ1時間ほどで着く
どう考えても半日はかからない
彼も、そうなんです、っと声を荒げた
月が出ていたので真っ暗というわけでもなかった
それなのに歩いても歩いても進んでいる感じがない
一本道のはずなのに同じところをぐるぐる回っている様子がする
疲れがピークに達したのか意識が途切れだして体もどんどん重たくなっていく
それでも友人のことを思い必死に歩き続けてようやく麓に着いた

その必死な表情を疑う者はいなかった
言葉を挟んだ青年隊の一人も真っ赤になって自分を恥じていた
それで最後に確認した
「あなたは3人で登山していてあなた以外の2人が滑落した。1人は死んでもう1人は見つからなかった。
そこであなたはご友人の1人を担いで山を下りた。もう1人は残念ながらまだ見つかっていない」
そう言うと彼が不思議そうに言った
「いや、僕と友人の二人で登山していました」
それで場は混乱
じゃあ、彼が背負っていたのは誰なんだって話になったんだけど
本人はこの人達は何を言ってるんだ、って訝しげな表情を浮かべた
同じ病院の霊安室に連れていき、運ばれていた遺体に対面させると
「見つけてくれたんですね。ありがとうございますありがとうございます」って涙を浮かべた
多分、友人が置いて行かれるのが嫌で彼にとり憑いていたんだろうって

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