ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 洒落にならない怖い話

ウラギリ者の高さ rw+4,850-0217

更新日:

Sponsord Link

子供の頃、祖父母の家に行くと必ず山へ入った。

小屋は俺たちの秘密基地だった。錆びたトタンと歪んだ板で組まれた粗末な建物だが、三人で掃き清め、机と丸椅子を持ち込み、砦のように整えた。猪突猛進のタケシ、慎重なマサヒコ、そして俺。危ないことはたいていタケシが言い出し、マサヒコが止め、それでも最後に決めるのは俺だった。

あの日も、決めたのは俺だ。

細い縄を見つけた。小屋の梁にかければ、滑車のように何かを吊れるとタケシが笑った。マサヒコは「やめろ」と言った。何を吊るすかなんて決めていなかった。ただ、やってみたかった。俺が言った。「一回だけだ」。

それが何だったのか、はっきりとは思い出せない。鳴き声のような音がした気がする。小屋の中が妙に静まり返った。俺は笑った。誰も笑わなかった。

それからすぐ、タケシは山に来なくなった。引っ越したと聞いた。マサヒコは俺を避けるようになり、やがて疎遠になった。小屋もそのまま、自然に返されていった。

大学生になり、久しぶりに祖父母の家を訪れたとき、あの小屋のことを思い出した。懐かしさというより、確認しなければならないという焦りに近かった。あれが本当にただの遊びだったのか。

道はほとんど消えていた。蜘蛛の巣を払い、倒木を跨ぎ、ようやく屋根が見えた。近づいた瞬間、あの匂いが鼻を刺した。腐敗ではない。汗と土と、金属の擦れたような、生温い匂い。あの日、梁の下で嗅いだ匂いと同じだった。

扉を開けると、暗闇が動いた気がした。

中央に人影があった。背丈は、子供と同じくらい。セーラー服を着せられた人形だった。埃を被りながらも、梁の真下に立っている。目の高さが、あの日に縄をかけた位置と同じだった。

なぜそんなことがわかるのか、自分でも説明できない。ただ、寸分違わないと確信した。

足元に丸椅子が転がっていた。俺が持ち込んだものだ。座面に黒く滲んだ文字があった。「ウラギリ者」。机の天板にも同じ文字。ペン立てにも。三つとも、俺の私物だった。

誰が書いたのかは問題ではなかった。あの場にいた三人のうち、字を書く癖があったのは俺だけだ。

喉が渇いた。床を見ると、薄いゴムの袋がいくつも散らばっている。乾いたもの、湿ったもの。だがよく見ると、中に何も入っていない。血のように見えた斑点は、黒く変色した泥だった。俺はなぜ、それを血だと思ったのか。

人形の首が、わずかに傾いた。

いや、動いていない。ただ、最初からそうだったのかもしれない。それでも、俺は確信した。あのとき吊るした何かは、落ちていない。今もここにある。形を変えて。

梁から、切れた縄が垂れていた。端は新しかった。誰かが最近、触れたように見えた。

逃げた。振り返らずに山を下りた。祖父母の家に戻り、荷物をまとめた。祖母が「久しぶりにあの子から電話があったよ」と言った。どの子かと聞く前に、「山に行ったの?」と続けた。俺は答えなかった。

東京に戻ってからも、匂いは消えない。電車の中で、不意に鼻を突く。講義室で、隣の席から漂う。部屋の梁を見上げると、縄の影が揺れている気がする。

昨夜、机の引き出しに丸めた紙が入っていた。開くと、子供の頃の俺の字で書かれていた。「ウラギリ者」。筆圧の癖まで同じだった。

思い出した。あの日、吊るしたのは動物でも物でもなかった。俺たちの「約束」だ。誰にも言わないと誓ったことを、俺が先に破った。笑い話にして、タケシを笑わせようとした。マサヒコは黙っていた。

人形は、あの日の高さで立っている。俺が決めた高さで。

あれは終わっていない。あのとき吊るしたものは、今も落ちずに揺れている。次に落ちるのは、きっと俺だ。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 洒落にならない怖い話

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.