火葬場で拾骨をしているときだった。
骨壺の前に立った瞬間、急に肩が重くなった。痛みはない。ただ、何かがのしかかっている。ちょうど、人を一人おぶったときの重さに近い。
最初は気のせいだと思った。立ちっぱなしで疲れたのだろうと。しかし、骨を箸で拾い上げるたび、その重みは少しだけ強くなった。背中に腕が回っているような、妙な感触まであった。
お経が続くあいだも、その重さは消えなかった。坊さんの声が低く響くたび、肩の奥がじわりと沈む。呼吸が浅くなるほどではない。ただ、確かにそこにいる。
引導が終わった瞬間だった。
すっと、消えた。
誰かが背中から降りたように。
その場では何も言わなかった。親戚たちは祖父の思い出話で笑ったり泣いたりしている。僕も相槌を打ちながら、肩をそっと回した。何もない。軽い。
そのとき、ある記憶が浮かんだ。
小さいころ、祖父の家に遊びに行くと、よくおんぶしてもらっていた。背中は広くて、煙草と畳の匂いがした。ある日、祖父がぽつりと言った。
「重くなったなあ。これじゃあもうおじいさんおんぶできなくなっちゃうなあ。今度はおんぶしてもらわないとなあ」
僕は笑って答えた。
「じゃあ大きくなったらおんぶしてあげるよ」
結局、その約束は果たされなかった。
そう思った瞬間、遺影の祖父の肩に目がいった。
写真の中の祖父は、少しだけ前かがみになっていた。背中に、何かを乗せているように見えた。気のせいだと思った。だが、さっきまで感じていた重みの形と、妙に重なる。
帰り際、もう一度だけ振り返った。
遺影はまっすぐ立っていた。
そのとき気づいた。
あの重さは、祖父をおぶった感触ではなかった。
背中に回された腕の位置が、どう思い返しても高すぎる。
まるで、僕よりずっと大きな誰かを背負っていたみたいに。
それ以来、時々、肩が重くなることがある。
誰かの命日でも、盆でもない、何でもない日に。
ふと振り向きたくなるほど、はっきりと。
けれど、振り向いたことは一度もない。
もしそこに、あの約束を覚えていないものが立っていたら困るからだ。
[出典:心霊ちょっといい話/97 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/02/21(水) 20:40]