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短編 ほんのり怖い話 n+2026

その日は、鍵がかかっていなかった nc+

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屋上に行ったのは、逃げた結果だった。

小学生の頃、私はいじめに遭っていた。理由は覚えていない。覚えていないということだけは、今でもはっきりしている。理由がないまま、教室にいることが苦痛になり、ある日、教室移動の混乱に紛れて廊下へ出た。そのまま戻らなかった。

家には帰れなかった。母はいつも家にいた。学校を休んだ理由、早く帰った理由、それを説明することの方が怖かった。だから校舎の中に留まるしかなかった。

授業中の校舎は妙に広い。音が消え、時計の秒針だけが廊下を支配する。私は行き場を失い、階段を上がり、屋上へ続く扉の前に辿り着いた。

屋上は、普段は閉ざされている場所だった。鍵がかかっていて、用事があるときだけ先生が開ける。立入禁止というより、存在しない場所のように扱われていた。

扉の前で、私は授業が終わるのを待つつもりだった。

だが休み時間になり、別の学年の生徒が何人か通りかかった。彼らは私を見た。見て、何も言わずに行った。その無言が、ひどく居心地が悪かった。

どうしたものかと思い、意味もなくドアノブに手をかけた。逃げ場を探すというより、ただ触れただけだった。

回った。

鍵は、かかっていなかった。

一瞬、間違えたのかと思った。もう一度回してみたが、やはり開いた。扉は、何の抵抗もなく内側に動いた。

屋上は静かだった。冬の空気が直接肌に触れ、冷たかった。上着は持っていなかった。校舎の中よりも寒いのに、なぜか戻る気にはならなかった。

私はそこに立ち、ぼんやりと空を見ていた。特別なことは何も起きなかった。ただ、ここにいると誰にも見られない。その事実だけが、ひどく楽だった。

しばらくして、私は屋上の端に近づいた。

理由は思い出せない。誰かに言われたわけでも、強い衝動があったわけでもない。ただ、そこに行くべきだと思った。思った、というより、自然に足が向いた。

下を見ると、簡単だった。

このまま身を乗り出せば終わる。難しいことではない。柵も、遮るものもなかった。考えるより先に、身体が前に出そうになる。

その瞬間、目の前に家族の顔が浮かんだ。

写真のようではなかった。記憶とも違った。現実の視界の中に、はっきりと存在していた。あまりに突然で、私は驚いて身体を反らした。

足がもつれ、危うく転びそうになった。心臓が痛いほど跳ね、息が荒くなる。私は慌てて端から離れた。

寒さを強く感じた。急に身体が震え出し、我慢できずに屋内へ戻った。

その途中で、先生に見つかった。

どこにいたのか、と聞かれた。屋上にいた、と答えると、先生たちは一瞬、言葉を失ったように顔を見合わせた。

「どうして鍵が開いていたんだろう……」

誰かがそう言った。その後のことはよく覚えていない。叱られたのか、保健室に連れて行かれたのかも曖昧だ。ただ、その言葉だけが妙に残っている。

後日、屋上の話を聞くことはなかった。鍵がどうなったのかも知らない。屋上に近づくこともなかった。

今、あの時のことを思い出すと、奇妙な点はいくつもある。鍵が開いていたこと。誰にも見られなかったこと。あのタイミングで、あの場所に行けたこと。

だが一番引っかかるのは、私が自分の意思で屋上の端に立ったのかどうか、という点だ。

飛び降りようと考えたのは私だったはずだ。だが、考えたという感覚が薄い。気づいたら、そこにいた。理由もなく、疑問もなく。

家族の顔を見て思いとどまったのだと、当時は信じていた。それが救いだったのだと。

けれど、今は違う考えも浮かぶ。

あの顔は、本当に引き戻すためのものだったのか。
それとも、最後に見せるためのものだったのか。

鍵が開いていた理由は分からない。
誰が、何のために、という話ではない。

ただ、あの日、世界は静かに私をそこへ通した。
それだけは、はっきりしている。

[出典:186 :本当にあった怖い名無し:04/07/31 20:53 ID:9r+J3VsY]

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