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視界の端の白 rw+3,119-0215

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あの子が死んだ。心臓発作、十三歳だった。

朝ごはんを食べて、窓辺で丸くなって、そのままだった。毛並みはつややかで、まだ温かかった。けれど、触れた瞬間にわかった。これは、もう戻らない温度だと。

泣きながら獣医に連絡し、火葬の手配をした。小さな骨壺を抱えて帰るとき、家族が言った。「違う道から帰ろう。ついてくるから」。昔からある言い伝えだ。

私は同じ道を選んだ。ついてくるなら、それでいいと思った。

帰宅したのは夕方。空は澄みすぎるほど澄んでいて、風の音がやけに大きかった。何も食べる気になれず、自室にこもった。キャットタワーに絡まった白い毛を、ひとつずつ拾い集める。柔らかくて、匂いがして、涙が止まらなかった。

気づけば床で眠っていた。時計は午前一時を少し過ぎていた。

喉が渇き、階段を降りる。玄関のほうから、風の音がした。ドアは閉まっている。それでも、確かに何かが擦れるような音が続いている。

あの子が、帰ってきたのかもしれない。

そう思ったのか、そう思わされたのかはわからない。台所から袋菓子をひとつ掴み、玄関へ戻る。ドアを静かに開けた。

何もいない。

けれど、冷たい空気だけが、家の奥まで入り込んでくる。私はそのまま、ドアを開けたまま立っていた。どれくらい経ったのか、わからない。

背後で、白いものが横切った気がした。

振り向かなかった。振り向けば、何かが確定してしまう気がしたからだ。

それでも、その夜から、視界の端に白が残るようになった。直接見ようとすると消える。けれど、ふとした瞬間、棚の下、カーテンの裾、ドアの隙間に、確かにいる。

嬉しかった。

少なくとも、最初は。

深夜、いつものようにベッドに入る。布団の中に、そっと何かが潜り込む気配があった。足元に、軽い重み。懐かしい温度。

私は目を閉じたまま、動かなかった。確かめなければ、失うこともない。

しばらくして、足首に何かが触れた。柔らかい、はずだった。

違った。

細くて、長くて、何本も絡まる感触。乾いていない。皮膚に吸いつくように貼りつく。

息が止まった。

それでも目を開けなかった。開けたら、見てしまう。見たら、私の中で何かが決まってしまう。

足元の重みが、ゆっくりと這い上がる。膝へ、腹へ、胸へ。喉のあたりで止まった。

そのとき、耳元で、息がした。

……なの?

聞き覚えのない声だった。

でも、否定できなかった。私は何に対してかもわからないまま、謝った。ごめんなさい、と繰り返した。何を選び、何を呼び、何を拒んだのかもわからないまま。

気づけば朝だった。親の寝室で目を覚ました。どうやって移動したのか覚えていない。親は「夜中にうなされていた」と言った。

自室へ戻ると、窓が少しだけ開いていた。昨夜、閉めたはずだった。

床に、白い毛が落ちている。

拾い上げると、指に絡んだ。いつもより長い。あの子の毛より、ずっと。

それ以来、白は消えない。

視界の端にいる。鏡越しにも、ガラス越しにも、光の反射の中にも。

確かめようとしなければ、そこにいる。

確かめれば、いなくなる。

あの夜、私が開けたのは玄関だけだったのか。
それとも、もっと別のものだったのか。

同じ道で帰ったことを、今でも後悔している。

けれど、本当にいけなかったのは、道だったのか。

白は、いまも視界の端にいる。

振り向かなければ、ずっと。

[出典:652 :本当にあった怖い名無し:2020/07/02(木) 01:39:54.78 ID:y0ECfhqN0.net]

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