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帰らずの村 r+8,517

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職場の飲み会の席で、十年以上前の話だと、上司がぽつりと語った。

その頃、地方に新設された工場の事務所に配属された上司は、山間の寂れた町外れにあるその施設で、夜遅くまでひとり仕事をしていたらしい。

帰路、慣れない道を間違えて、気づけば隣村に迷い込んでいた。

右に出るべき道を左に曲がり、気づけば辺りは真っ暗。道幅は次第に狭まり、車を引き返すにも場所がない。土地の人しか通らないような生活道に轍が続いているのを見て、「先に集落があるはずだ」と、そのまま進んだという。

ようやく、ぼんやりと明かりの灯る家々が見えた。ほっとして、家の前に車を停めた。タバコを一本吸い終えてから外に出た瞬間、息を呑んだ。

暗がりに、異様なほど静かな村人たちが立ち尽くしていた。十人、いや、それ以上。全員が老人で、表情には一切の温度がない。

ひとりが叫ぶと、次々と口々に叫び出した。

「帰れ……帰れ!他所もん……盗人……やらんぞ!帰れ!」

言葉のすべては聞き取れなかったが、怒気と敵意だけは肌に刺さるようだった。

後ずさると、背後にも人の気配。振り返るとそこにもまた老人たちがいた。そして、その中に、小柄な老婆が上司の真下から見上げていたという。手には数珠、口は念仏を唱えていた。

逃げるように車に戻り、走らせた。振り返ると誰も追ってはこない。だが、山にこだまするように、あの老婆の叫び声だけが耳に残った。

気がつけば、隣県の国道に出ていたという。朝になってようやくアパートに戻れたが、その日から身体が異様に重くなり、食事が喉を通らず、顔つきまで変わった。

病院では異常なし。

弱気になったのだと自分を叱咤したが、回復の兆しはなかった。

ある日、役場の若い担当者と会った折、妙なことを言われた。

「呪われてますよ、あなた」

まじめな顔だった。彼は霊感があるという噂もあった。冗談かと思ったが、その目にからかいはなかった。

「お祓い、受けた方がいいです。僕の知ってる寺があります」

紹介された寺の住職は、落ち着き払った声で、淡々と上司を祓った。その夜から、嘘のように回復した。

お祓いのあと、上司はあの夜の出来事を住職に話した。すると、住職は語り始めた。

あの村は、ある出来事をきっかけに異常なまでに外部を拒絶するようになった。昔、宿を貸した旅人に赤子をさらわれたという。以来、赤子がいるあいだは他所者を受け入れない掟ができた。

やがて、祈祷師を呼び、他所者を「祓う」ようになった。何を、どう祓ったのかは、住職も深くは語らなかった。

疑問がひとつだけ、どうしても拭えなかった。

「そういえば、あの村……若い人間は一人も見かけませんでした。あの晩、みんな老人でした」

上司がそう言うと、住職の顔が一瞬だけ強張った。

「……あの集落はもう、三十年以上前に人がいなくなった村ですよ。高齢化が進みすぎて、若い人はとっくに出ていった。老人だけが取り残されて、ある日、全員……消えました」

その瞬間に走った悪寒を、上司は今でも忘れない。

後日、どうしても確かめたくなった上司は、役場の彼と、取引先の担当と三人で、昼間にその村を訪れた。崩れた廃屋ばかりで、廃村の様相を呈していた。

だが、集落の奥まで歩いたところで、ふと振り返ると――そこに広がる景色は、あの晩と寸分違わぬものだった。

車から降りなかった役場の彼は、ぽつりと呟いた。

「あの廃墟の陰に……まだ、いるみたいですよ」

三人は念のため、またあの寺を訪れたが、今度は住職にひどく叱られたという。

「二度と、あの地に近づくな」

その声が、あの夜の老婆の叫び声と重なった気がした――と、上司は最後に呟いた。

(了)

[出典:241 :2011/07/20(水) 22:12:44.62 ID:KT3ktib/0]

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