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これ、おっちゃんの子 rw+3,854-0121

更新日:

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小学校五年の夏、アメリカでワールドカップが開かれていた。

理由はよく覚えていないが、その年の俺と幼馴染の康雄は、毎日のようにサッカーボールを蹴っていた。

いつもの公園に飽きたある日、康雄が「別のとこ行こう」と言い出した。名前だけは知っているが行ったことのない公園が、住宅地の外れにあった。自転車で二十分ほど。距離のわりに人の話題に出ない場所だった。

そこは昼間でも薄暗く、木が密集していて湿気が重かった。遊具は古く、地面は常に濡れているようで、神社の境内に似た匂いがした。気味は悪かったが、逆にそれが面白くて、俺たちは何度も通うようになった。

三回目くらいだったと思う。康雄と、その二歳下の弟の孝俊と三人で遊んでいると、背後から声をかけられた。

振り向くと、五十歳前後の男が立っていた。
髪は異様に長く黒い。歯は欠けていて、口元が常に湿っている。距離が近づいた瞬間、甘ったるい臭いが鼻についた。

何を話したのかは覚えていない。
気づいたら、俺たちはその男の家に向かっていた。

家は公園のすぐ脇にあり、二階の一室に通された。窓から公園が見えた。さっきまで俺たちがいた場所だ。部屋にはテレビとビデオデッキがあり、康雄が勝手に電源を入れた。

男は、じっと俺たちを見ていた。

「ビデオがある」

そう言って、リモコンを受け取ると再生した。
古い映像だった。東京オリンピックのドキュメンタリー。競技と結果を振り返る内容で、時代の古さが画面の粒子から伝わってきた。

二十分ほど経った頃、映像が乱れ、画面が暗転した。
戻った瞬間、ナレーションが変わっていた。

子供の声だった。
抑揚が不自然で、後から録音したのがすぐ分かる。

男は嬉しそうに言った。
「これ、おっちゃんの子」

理由は分からない。ただ、寒気がした。
康雄も孝俊も黙り込んでいた。

そのまま、延々と見せられた。
男は画面を見ているふりをしながら、俺たちの顔を眺めていた。

日が暮れ、ようやく帰った。
帰り道で「もう行かない」と決めた。

数日後、康雄が消えた。

夜になっても帰らず、母親が俺の家に来た。
最後に一緒にいたのは弟の孝俊で、近くの池でザリガニ釣りをしていたという。康雄は先に帰ると言って、そのまま姿を消した。

池は浅く、警察が調べても何も出なかった。

頭に浮かんだのは、あの家だった。
だが、口に出せなかった。

翌日、俺は一人でその家に行った。
どうやって中に入ったのか、よく覚えていない。

男は、前と同じように笑って言った。
「ビデオ、見よう」

再生されたのは、同じ東京オリンピックの映像だった。
例の場面で、また暗転した。

次に聞こえた声で、息が止まった。

康雄の声だった。

震えていた。
息を詰める音まで分かった。

立ち上がろうとした俺に、男が言った。
「これ、おっちゃんの子」

そこで記憶が切れる。
気づいた時には、自転車を漕いでいた。

家には遠回りして帰った。
母に話した。
その夜、警察が来た。

数日後、康雄は池の近くで保護された。
何があったのか、誰も教えてくれなかった。

一か月後、康雄は学校に戻った。
ただ、俺と目を合わせなかった。

「本当に関係ないのか」

そう聞いた瞬間、康雄は怒鳴り、泣いた。

その後、康雄は転校した。

大学生になってから、俺はあの話を思い出す。
声というものは、録音すれば残る。
消えた人間より、長く。

今でも、古い映像を見ると不安になる。
子供の声のナレーションが始まる気がする。

あれが康雄なのか。
それとも、もう区別できなくなっているのか。

最近、自分の声を録音して聞くのが怖い。
どこかで、編集されている気がする。

[出典:123: 本当にあった怖い名無し 2009/07/05(日) 05:12:08 ID:xeP25AoL0]

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