短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

ずっと友達#986

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敦彦は小学二年の途中から転校して来て、最初は『暗い奴だな』という印象しかなかった。

怖い話投稿:ホラーテラー 電車男 : 2010/06/09 12:45

もやしのようにほっそりとした体に、牛乳瓶の底のように分厚いメガネ。

いかにもガリ勉という印象で、休み時間もみんなと騒ぐ事もなく、一人っきりで物静かに読書をしている、そんな男だった。

ある日の放課後、先生に呼び出しくらって怒られた後教室に戻ると、必死に何かを探す敦彦の姿があった。

下校時間で誰もいない教室。

気になった俺は敦彦に声をかけた。

「香川(敦彦)、何探しているんだ?」

「あっ…谷口君。本…本のしおりを探しているんだ」

よほど大事な物なのだろうか?敦彦は焦っているようだった。

以前勉強を教えてもらった事もあり、俺は一緒になって探した。

「あっ!…これか?」

木造校舎の床、木の隙間に挟まっていた。

「あぁ、ありがとう谷口君!」

敦彦は見たことがない笑顔を向け、それを見た俺は何だか嬉しくなった。

「このしおりはね……死んだおばあちゃんが使っていた物で、死ぬ前に僕にくれたんだ。宝物なんだよ」

「そうか、見つかって良かったな!」

俺と敦彦は教室をあとにした。

校門を出るとなんとなく一緒に帰る流れになった。

しばらくお互い無言だったが、珍しく敦彦から話しかけてきた。

「ねぇ谷口君、うち誰もいないんだけど、遊びにこない?テレビゲームもあるよ」

「マジで!?やりたい!」

テレビゲームなんて買ってもらえなかったので、ワクワクしながら敦彦の家について行った。(ちなみに、ファミコン以前のテレビゲーム)

「ここだよ」と言う敦彦の家は凄く立派な建物で、入るのを躊躇してしまう程だった。

敦彦の部屋は十畳以上あったと思う。

綺麗な学習机に沢山の図鑑、超合金なんかもいっぱいあった。

「お前んち金持ちなんだな」と言うと、敦彦は寂しそうに笑った。

「いくら物があっても、外で激しい運動が出来ないんだ…体弱くて、お医者さんから運動止められていて…」

どうやら敦彦は、病気で心臓が悪いらしい。

当時は養護学級などほとんどなかったので、こういう子達もクラスに一人くらいの割合でいた。

「香川、お前上手すぎ!ちょっとは手加減しろよ!」

「えぇー!?谷口君、手加減したら面白くないよ」

今までほとんど話した事がなかったが、ゲームをしているうちに俺達はすぐに打ち解け、帰る頃にはお互い呼び名も変わっていた。

「敦彦、また勝負しような!次は負けないからな!」

「次やってもタニヤンは勝てないと思うよ」

それから俺達は急速に仲良くなった。

学校でもよく話すし、敦彦はほかのクラスメートとも話すようになった。

三年生になってもクラスは同じになり、楽しい毎日を送っていた。

ところが四年生になる頃、養護学級が出来る事になり、敦彦とクラスが離れ離れになるという話を聞いた。

「敦彦、クラスは変わるけど、今まで通り遊ぼう」

「タニヤンありがとう。僕もずっと友達だと思っているから」

「当たり前だろ!まだお前には一度もゲーム勝ってないんだし、これからもバンバン遊びに行くからな!」

そう約束したが、四年生になると敦彦の体調が思わしくなくなり、検査入院や自宅療養であまり会えなくなってしまう。

何度となく訪問したが、そのたび敦彦の母さんは申し訳なさそうに「ごめんね」と謝る。

お俺は心配する事しか出来なかったが、五年生に進級して間もなく敦彦は亡くなってしまった。

初めは信じらんない気持ちだったが、通夜の後にっこり笑う敦彦の遺影を見て、『本当にお別れなんだな』と思ったら、悲しくて涙が溢れてきた。

俺は心にぼっかりと穴が空いたようだった。

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悲しみも癒えてきたある日、同じクラスの裕二と秀樹に誘われた。

「おっ!タニヤン、これから公園に遊びに行かないか?」

「いいよ!何して遊ぶ?」

そう言うと、裕二は勿体ぶって話し始めた。

「公園の裏山知ってるだろ?実はな……」

秀樹と裏山の奥に秘密基地を作ったらしく、その近くに砂防ダム(小さなダム)があり、そこで魚がたくさん釣れると言う話だった。

俺は一旦帰宅してランドセルを置き、釣り竿を持って裕二達と公園で合流した。

基地は結構近く、廃材を柱に、壁や屋根はダンボールやシートで囲っただけのチャチなものだ。

だけど外で遊ぶのが当たり前の時代、その時はそれがとても楽しかった。

基地でお菓子を食べ終え、釣りをしに向かったのだが、ダムまでの道のりは思ったより遠く、草薮をかき分けながら奥まで進んで行った。

二十分くらい歩くと開けた場所に着き、小さなダムがあった。

「やっと着いたな…ふぅ」

道なき道を歩き続けて三人とも少し疲れていた。

裕二の話だと上流側が釣れるとの事だったが、見ると秀樹は既に釣り糸を垂らしていた。
「特等席もーらい!早いもん勝ちだ!」

秀樹が得意気に言うと、裕二が「お前ずるいぞ!俺も隣で釣るわ!」と、秀樹の隣を陣取った。

その様子を見て、俺は笑いながら対岸から釣り糸を下ろした。

言ってた通り本当によく釣れた。

裕二達の方は。

一匹も釣れない俺は対岸に移ったが、釣り場所がないので、「俺もう少し上流行ってみるわ」

と、かき分けながら上がって行った。

辺りは一層草が生い茂って足場がなく、俺はどんどん登って行く。

五分くらい登ると、さっきよりも広く静水している場所を見つけた。

よしここで釣ろう!と、俺は釣り糸を垂らした。

すると早速魚がかかり、その後も面白いように釣れ
俺は夢中になっていた。

気づけば日も傾きかけてきたので、竿を片付け戻る準備を始めた。

カサカサ……カサカサ……

まさか熊じゃないだろうな?

注意深く辺りを見渡すが何も見えない。

気のせいか?と思い、下流に向け歩き出すと背後から、カサカサ……カサカサ……

間違いない何かいる!

俺は素早くうしろを振り向いた。

「あぁぁ…」

すぐ後ろには男が立っていた。

帽子を被りリュックを背負ったその男は、口から血が混じったような涎を垂れ流し虚ろな目をしていた。

俺は喚きながら魚を投げつけ走り出した。

「うわぁぁー!わーっ!」

逃げている最中は恐ろしくて振り返る事が出来なかったが、耳元から男の声が聞こえる。
「苦しい……オォォ…」

止まったら終わりだ!誰か助けて!

そう思いながら走っていると、足元をとられ転倒してしまった。

もうお終いだ!

立ち上がる気力もなくなってうずくまっていると、懐かしい声が聞こえる。

「タニヤン…タニヤン…」

「敦彦……?」

おそるおそる立ち上がり振り返ると、男の姿はなく敦彦が立っていた。

俺は何がなんだか分からず呆然としていると、敦彦は何か呟きにっこりと微笑んで消えてしまった。

俺は敦彦がいた場所を見て涙をこぼしながら叫んだ。

「ありがとう敦彦!お前助けてくれたんだな!」

あれから三十年近く経つが、敦彦は今でも大事な親友だ。

なぜなら、消える間際の言葉が物語っている。

「僕達ずっと友達だろ」

(了)

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