短編 洒落にならない怖い話

蜘蛛の神様【ゆっくり朗読】

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お化けの話ではあるが、オチはもない。

1089 :本当にあった怖い名無し:2023/07/31(月) 12:12:07.67 ID:OtRCe24A0.net

夏季休暇に入り、上京してから帰っていなかった千葉県の実家へ久しぶりに帰省したら、思いがけず怖い思いをした。

妻と子供二人(娘と息子)共に午前中に実家へ着き、その日の昼食時のことだ。

母が娘へ夕方になる前に帰ること、特に変な声が聞こえてきたらすぐ帰ってくるんだよと言っていた。
それを聞いて、自分も子供の頃に、両親や近所の人達から同じ事を言われていたのを思い出したんだ。
子供の頃、俺も友人達も素直にその教えに従っていたし、その変な声というのも聞いた記憶がある。
今になって思えば、鐘の音とか地域の放送でもなく、声を聞いたら帰るというのは明らかにおかしい。
当然、理由を子供の頃に聞いた気がするが、あまりにも日常の記憶すぎて理由が思い出せず、母に聞いてみた。
すると、母が少し呆れた顔で話してくれた。

この辺りには特にありがたいわけでもないし、奉ってもいないが、昔から蜘蛛の神様がいる。
明るいうちは悪いこともしないが、日が落ちてからは別で、たまに出歩いている子供をさらうことがあったそうだ。
その蜘蛛の神様は変な声を出していて、それが聞こえるということは、近くまで来ている。
だから、さらわれる前に帰ってこい、ということだった。
普通に考えれば、子供達を暗くなる前に帰らせる為の戒めか何かだろう。
一緒に聞いていた妻もそう思ったのか、笑いながら娘に暗くなったらお化け出るから早く帰ろうね、とか言っていた。
でも、俺は違う。子供だった頃の俺も友人達も実際にその声を聞いている。
例えるのがとても難しくて、擬音だとボソボソという感じでそれが途切れ途切れで聞こえてくるとでも言えばいいのか。
しかし、それも何か違う気がするし、実際に聞いた身でも変な声としか言いようがない。
そして、それが素直に言うことを聞こうと思うほどに気味の悪いものだったことも思い出し、身震いした。
日常の記憶だったとしても、オカルトだって好きなのに、何故あんなものを今まで忘れていたのかとも思ったよ。

とはいえ、当時はもちろん、この日に至るまでここらで子供が行方不明で見つからないという話を俺は聞いていない。
両親にも確認したが、少なくとも知る範囲でそんな事件は起こっていないとのこと。
第一、まだ里山や田んぼがあるとはいえ、曲がりなりにもここは規模で言うと市だ。
市街地は当然として、郊外でも日が落ちてから出歩く人はそれなりにいるし、その中には当然、子供もいるのに何も起こっていない。
俺の子供の頃の記憶も明瞭というわけでもなく、きっとオカルト脳で何かと結びつけたのだろう。
やはり、ただの子供を諌める為の戒め、作り話だ。
そう結論を出し、まだ小さい息子は両親と妻に任せ、午後から娘と辺りへ出歩くことにした。

普段は市街で山や田んぼが珍しいのか、娘はとても喜んでいた。
一緒にザリガニや虫取りをしたり、浅い水路の中を歩いたり、女の子でもこういうのが楽しいものなんだなと思ったよ。
俺も楽しく時間を忘れて遊んでいたら、スマホに妻から着信があり、そろそろ夕飯だから帰ってこいとのこと。
時計を見ると5時半過ぎくらいだったかな。この時期は日が落ちるのも遅いし、もうこんな時間だったのかと驚いた。
そして、手を繋いでいた娘にそろそろ帰ろうと言った時、娘が顔を少ししかめながら言ったんだ。
「お父さん、変な声が聞こえる。」
それを聞いた時、一気に鳥肌が立ったよ。
そして、混乱した。
まだ明るいのに、作り話じゃないのか、俺の記憶は間違ってなかったのか、とかね。
でも、それは一瞬で、すぐに娘をおんぶしてできる限り早く走りだした。
転ばないようにしないとか、娘のサンダルも忘れてないとか、妙なところは冷静だったのは覚えている。
そして、背中では娘が「まだ変な声が聞こえる。」のみならず「声がついてきてる。」等と言っている。
でも、俺には全く聞こえなくて、それがまた怖くて怖くて仕方なかった。
やがて、それなりの距離を娘をおんぶして走り、汗だくで息を荒げて実家に転がり込むと、両親と妻が驚いていた。
玄関に倒れたまま、もう歳だと思っていたけど必死になると結構動けるものなんだなと思ったね。

水を飲み、ひといきつくと、俺は両親達に何があったのかを話したが、その反応は拍子抜けするものだった。
両親は声が聞こえて帰ってきたならいいじゃないか等と言い、妻にいたっては全く信じていないのか笑っている。
両親に説明を求めても、昼にした話と、最近は声が聞こえたという話は聞かないということしかわからなかった。
当事者の娘にしても声を聞いたことは認めるものの、特に怖がっている様子はなく、普段通りだ。
そんな皆の様子を見て、一人だけ必死な自分がなんだか恥ずかしくなった。
落ち着いて考えてみれば、声を聞いたという娘の言葉と昔の記憶を繋げて、オカルト好きの自分が早とちりで取り乱しただけに思える。
娘の証言にしても子供の言うことだし、何かの音を祖母から聞いた話と結び付けただけな気がしてきた。
そうして俺の話はそこで終わり、その後は子供達と風呂に入り、夕食を食べ、22時頃には就寝した。

その夜、俺はふと目を覚ました。

時計は見ていないが、明るくはなっていなかったので夜中なのは間違いない。
また寝ようと思ったがなんとなく寝付けず、二階から一階の台所へ行き、麦茶を飲んだ時にふと思い出した。
師匠シリーズだったかな?夜中にふと目が覚めるのは、誰かが外に来ているからとかなんとか。
本当に誰かいたりして…などと思いながら、二階へ戻る途中に玄関のドアスコープから外を見たが、当然、人影一つ見えない。
自分の行動に苦笑しながら、夜風にでもあたろうと思い、俺は玄関から外へ出た。
外は思ったよりも涼しく、まだ暗い夜中にもかかわらず蝉の声と遠くから蛙の声が聞こえる。
こんな時間でも蝉って鳴くのかと思いながら、なんとなく蝉の声が聞こえる方へ顔を向けた時だった。

その方向は山へ向かう道で少し先がT字路になっているのだが、そこに数人の人がいた。
T字路にある街灯に微かに照らされていたのは、黒い着物の髪の長い女性と、同じく黒い着物の数人の子供達。
子供の数は正確に数えていないが、十人以上はいた気がする。
俺が動けずに固まっていると、蝉や蛙の声に混じり、子供の頃に聞いたあの変な声が聞こえてきた。
冷や汗をかき、怖くて堪らないのに、何故かその時は全く動けず、声も出せず、女性達から目を逸らすこともできない。
(あの女性はなんだ?こんな夜中に子供を大勢連れて何であそこにいる?そもそも人間か?なんで今この声が聞こえる?)
色々な考えが頭の中に巡り、その中で娘が言っていたことを思い出した。「声がついてきてる。」
(まさか、あの女性は蜘蛛の神様なのか?家までつけられた?何で?)
オカルト好きとはいえ霊や神様の存在を心から信じていたわけじゃないが、この時は様々な洒落怖の悲惨な最期が頭に浮かんだよ。
俺はここで死ぬんだろうか、それとも憑かれて苦しんでから死ぬのか、子供達や妻や両親は大丈夫なのかってね。
でも、そんなことを考え、覚悟とかそんなものも決まらず、怯える俺の前で、女性達は音もなく消えた。
同時に固まってた体が自由になり、俺はその場にへたり込んだ。変な声も聞こえなくなっていた…。

このようなことが四日前の夜にあったわけだが、今では夢だったのかと思っている。

その日の朝に両親や妻にも話したが、両親は馬鹿なことをと笑っているし、妻は前日のこともあり、俺がおかしくなったのかと心配していた。
何か証拠があるわけでもなく、両親や近所の年寄り達に聞いても蜘蛛の神様の姿を見たなんて話は全くなかった。
まだ実家に滞在しているが、最初の日以外は娘も声が聞こえるとは言わないし、俺も夜中に外へ出てみたが女性達の姿は見ていない。
別に祟りみたいなこともなく、いたって平和な休暇を実家で送っている。
というわけで、俺は非常に怖かったが、女性達の正体もわからず、オチもない。
ただ、夢なのかもしれないが、生まれて初めてそんな体験をしたのかもしれないという話だ。

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