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封印の二打 rw+4,683-0216

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関西の港で働いていたのは、今から十三年ほど前のことだ。

まともな職に就けず、日雇いに近い形でコンテナの荷降ろしをしていた。

海を渡ってくる鉄の箱。外側は無機質な塊だが、中身は国も言葉も違う土地の気配を丸ごと抱え込んでいる。扉には必ずシーリングが打たれている。

金属の封印だ。現地で積み込まれ、こちらで切断するまで、誰も開けられない仕組みになっている。

作業は単純だ。封印を切り、重い扉を開け、荷を人力で受け取り、フォークリフトに渡す。だが単純さの裏で、空気はどこか濁っていた。

倉庫には昔の名残を引きずる連中もいて、休憩所には煙草の煙と荒い笑い声が充満していた。誰も余計なことは言わない。見ないほうがいいものは見ない。それが暗黙の了解だった。

異変があったのは、夏の午後だった。昼休み明け、一本のコンテナの前に主任と運転手の田平さんが立っていた。二人とも無言で、開いた扉の隙間を見つめている。私は近づきかけたが、主任が振り向きもせず低く言った。

「……閉めるぞ」

扉はすぐに閉じられた。封印はまだ切られたままだったが、その日の作業は中止になった。理由は説明されなかった。誰も聞かなかった。

数日後、酒の席で田平さんがぽつりと漏らした。あのとき、扉を開けた瞬間、奥から音がしたという。荷の向こう、見えない位置から、内側を叩く音。ガン、と。重く、鈍い響きだったと。

「誰かおる、思たわ」

そう言って、彼はそれ以上話さなかった。

コンテナは密閉されている。海外で積み込まれた時点で封印され、こちらで切るまで開かない。途中で誰かが入り込む余地はない。理屈の上では、そうだ。だがあの日の音は、空気の歪みや鉄の軋みではなかったと田平さんは断言した。叩く意思があった、と。

それ以降、私は封印を切るたびに耳を澄ますようになった。重いニッパーでシーリングを断ち、扉を開く。そのわずかな隙間から、何かがこちらをうかがっている気がした。荷はぎっしり詰まり、奥は暗く、見通せない。だが視線のようなものだけが、確かにある。

決定的だったのは、秋口の夕方だ。作業が終わり、倉庫の隅に置かれた未開封のコンテナの前を通ったときだった。すでに日も落ちかけ、周囲は静まり返っていた。

そのとき、内側から音がした。

ガン。

一拍おいて、もう一度。

ガン。

乾いた音ではない。湿り気を帯び、鉄板を通して胸に直接届くような響きだった。そこにいた数人が同時に足を止めた。誰も声を出さない。ただ、目だけが動く。扉には新しいシーリングが光っている。まだ切られていない。

三度目はなかった。沈黙が戻っただけだ。

誰も近づかなかった。誰も封印に触れなかった。そのまま解散になった。翌日、そのコンテナは別の倉庫へ回されたと聞いた。誰が開けたのかは知らない。中身が何だったのかも。

だが、それ以降、私は密閉された空間が駄目になった。エレベーター、地下鉄の車両、窓のない会議室。四方を囲まれると、どこかで鉄板を叩く音がする気がする。実際に聞こえることもある。低く、重い二打。

ガン。ガン。

耳鳴りだと言われれば、そうかもしれない。だが音はいつも、外ではなく内側から響く。自分の背後、あるいは壁の向こう側から。

私は港の仕事を辞めた。理由を問われても説明できなかった。ただ、封印を切る瞬間のあの感覚に耐えられなくなっただけだ。

今でも街でコンテナを見ると、目を逸らしてしまう。高速道路脇に積まれたもの、駅の貨物列車に載せられたもの。何百何千とある箱のうち、いくつかは叩かれているのではないかと考えてしまう。封印されたまま、海を越え、国境を越え、運ばれ続ける。

あれは助けを求めている音だったのか。

それとも、外に出ようとしている音だったのか。

もしあのとき、誰かが封印を切っていたら、何が起きていたのか。

考えたくないのに、考えてしまう。なぜなら最近、あの音の間隔が短くなっているからだ。

昨夜も、自宅の壁の向こうで鳴った。

ガン。

そして、少しだけ間を置いて。

ガン。

鉄ではない。石膏ボードのはずの壁から、それでも確かに、内側から叩く音がした。

私は息を殺して耳を澄ませた。次の一打を待つように。

しばらくして、静寂が戻った。

だが今、これを書いている最中も、机の奥、引き出しの向こう側から微かな振動が伝わっている気がする。封印されたままの何かが、こちらを認識しているような。

コンテナは世界中を移動する。閉じた箱のまま、誰にも見られず、ただ運ばれる。

そして封印は、外から切るものだと思っていた。

だがもし、内側からも切れるのだとしたら。

次に叩かれるのは、どこの壁だろうか。

[出典:853 本当にあった怖い名無し 2013/04/12(金) 13:50:17.34 ID:G64AGWrG0]

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