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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026 オリジナル作品

🚨少し遅れている iwa+

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午前二時ちょうどに、毎晩、非通知の電話が鳴った。

出ても、相手は何も言わない。
最初の二晩は、それだけだった。

三日目の夜、受話器の向こうで水の音がした。
細く、切れずに落ちつづける音だった。
そのあとで、低い駆動音が混じった。冷蔵庫みたいな、古い家電の唸り声に似ていた。
さらに、その奥でテレビのニュースが小さく聞こえた。

流れていた内容が、いま自分の部屋でつけているニュースと同じだった。

テレビを消した。
部屋は静かになった。
でも、受話器の向こうではニュースだけが、少し遅れて流れつづけていた。

四日目の夜は、呼吸が聞こえた。

すー。
はー。

深くも荒くもない、落ち着いた息だった。
電話越しというより、薄い壁一枚向こうで誰かが眠っているみたいな近さだった。

自分も息を止めてみた。
向こうの呼吸は止まらなかった。

しかも、ほんの少しだけ遅れていた。
同じ間隔に聞こえるのに、ぴたりとは重ならない。
こちらのあとを、半拍だけずらしてなぞっているようだった。

五日目の夜、硬いものが卓上に触れる音がした。
コップの底みたいな、短く乾いた音だった。

そのとき、わたしはベッドから動いていなかった。
水も飲んでいないし、台所にも行っていない。

六日目の夜は、一時五十九分の時点でベルを切った。
スマホの電源も落とした。
テレビも消した。
部屋の中から、音を一つずつ消していった。

二時になっても、何も鳴らなかった。

そのまま眠ってしまったらしい。

朝、留守番電話のランプが点いていた。
昨夜、二時ちょうどの着信だった。

再生すると、最初に水の音がした。
次に、低い駆動音。
少し間があって、布団の擦れる音が入る。

録音の中で、誰かが寝返りを打った。

昨夜、自分が打った寝返りと同じところで。

そのあと、呼吸が聞こえた。

すー。
はー。

昨夜、受話器の向こうで聞いたものと同じだった。
やはり少しだけ遅れていた。

やがて、きし、とベッドが鳴った。
誰かが体を起こした音だった。

無音が落ちた。

そのあと、女の声がした。

「……もしもし。」

少し間があいた。

「起きてる?」

自分の声にしか聞こえなかった。

そこで終わりだと思った。

録音はまだ続いていた。

受話器を持ち直すような、小さな擦れ。
それから、さっきより近い声で、わたしが言った。

「ねえ」

間。

「いま、そっちのベッドの横に立ってるの、だれ?」

[志那羽岩子 ◆PL8v3nQx6A]

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