夫は「駐車場で見つけやすいから」という理由で、歴代の車のナンバーをすべて同じ番号にしている。
自営業で、車を使うことも多いし、話のネタにもなるからというのも理由のひとつらしい。
私の今の車は夫のお下がりなので、当然そのナンバーのままだ。
満車の駐車場でも一瞬で見つかるのは確かだが、目立ちすぎるという欠点もある。
案の定、「あのナンバーの車は〇〇屋さんの奥さん」という認識が、夫の客の間ですぐに共有された。
「さっきスーパーで見ましたよ」
「今日は特売だからって朝言ってたでしょ」
そんな会話が当たり前になっていった。
最初のうちは、特に気にもしていなかった。
ところが、次第に妙な目撃談が混じるようになった。
「昨日の夜、奥さんの車とすれ違いましたよ」
その日は夫と家で夕食を食べていた。
「さっきコンビニに停まってましたよ。今日はお休みですか」
その時間、私は職場にいた。
私の行動はだいたい説明がついたし、変な疑いをかけられることもなかったので、見間違いだろうということで済ませていた。
ある日の昼過ぎ、仕事中に夫から電話がかかってきた。
珍しいと思いながら出ると、妙に声が低い。
「今どこだ」
「仕事中だけど」
「だよな……今、お前の車が前走ってる」
一瞬、冗談かと思った。
「なに言ってんの」
「いや、ナンバーが同じで……あ、曲がった」
電話口の向こうで、ウインカーの音が聞こえた。
追いかけているらしい。
仕事中に何やってるの、と怒鳴りたいところだったが、そのときは不思議と声が出なかった。
胸の奥に、理由のない冷たさが広がっていく。
「見失った」
「それ、本当に私の車?」
「間違えるわけないだろ。あの番号だぞ」
夫の声が急に小さくなる。
私も同じことを考えていた。
「……追いつかなくてよかったのかもな」
それだけ言って、電話は切れた。
その日の帰り、職場の駐車場を確認した。
朝乗ってきた車は、いつもの場所に、何事もなかったように停まっていた。
安心すべきなのに、そうは思えなかった。
夫が見たのは、見間違いではない。
あれは確かに「私の車」だったという確信だけが残った。
ドッペルゲンガーを見ると死ぬという話がある。
では、車の場合はどうなるのだろう。
車だけが壊れるのか。
それとも、乗っている私ごとなのか。
最近は、駐車場に停まっている自分の車を見るたびに、どこか数が合っていないような気がする。
通勤のたび、どうか自分自身が、私の車を目撃しませんようにと、それだけを考えてハンドルを握っている。
[出典:怖い話&不思議な話の投稿掲示板/投稿者「茉莉花 ◆YKNRA59o」 2018/12/01]