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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

跡だけが先に来る nc+

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祖母はいわゆる「みえる人」だったらしい。

らしい、というのは、祖母自身がそう言い切ったことは一度もなかったからだ。

私は祖母に育てられた。昼間は洗濯物の匂いと、縁側に落ちる光の中で過ごし、夜になると布団の中で、祖母の語る妙な話を聞いて眠った。怖い話というより、説明のつかない話だった。

ある昼下がり、洗濯物をたたむ祖母に、私はふと思いついたことを聞いた。

「人っち、死んだらどこ行くん」

祖母は一瞬だけ手を止めて、「あの世やろ」と言った。
あまりにも当たり前すぎる答えだった。

「でもさ、お盆以外でも幽霊は出るやろ。あの世に行かん人もおるっちことやん」

祖母は顔をしかめた。

「あの世に行かんっちことは、決まりを破るっちことや。不良やな」

「じゃあ悪霊なん」

「そこまでは知らん」

それ以上踏み込もうとすると、祖母は決まって話を切った。「みえるからっち、なんでもわかるわけやない」と。

その日も、私は引き下がろうとした。
だが祖母は、洗濯物をたたむ手を止めないまま、ぽつりと言った。

「昔な、人が死んだら、こうなるんかなっち思うもんを、見たことがある」

裏の畑に住んでいた老女の話だった。
口が軽く、毎朝畑に出ては、ついでのように祖母の家を覗き込む人だった。

その老女が、ある日ぽっくり死んだ。

葬式の翌朝、祖母が鶏の世話に出ると、畑に老女がいた。
生きていた頃と同じ場所でしゃがみ込み、何も摘まないまま立ち上がり、祖母の家を覗いて帰っていった。

怖くはなかったという。
ただ、変だった。

それは一週間ほど続いた。
老女の姿は日に日に薄くなり、やがて透け、十日目には消えた。

「あれは幽霊やったん?」

「違う」

「じゃあ、なんなん」

祖母は少し考えてから言った。

「しみついちょったんやろ」

老女が毎日していたこと。
畑に出て、野菜を取り、帰りに人の家を覗く。その動作が、場所に残った。

「車が毎日通る道には跡が残るやろ。通らん日でも、ここは通る道やっちわかる。それと一緒や」

祖母は、そこかしこに残るものがある、と言った。

それが消えたのは、「大元がおらんくなったけん、薄まっただけ」だと。

その話を、私は長いこと、都合のいい作り話だと思っていた。
子どもを煙に巻くための。

だが、大人になってから、同じものを見た。

隣の家で救急車が止まった日。
小道の先で、病気のはずのおじさんが、救急隊を手際よく誘導していた。

背筋を伸ばし、手を振り、当たり前の顔で。

その日の夜、看板に書かれていたのは、おじさんの名前だった。

母は見間違いだと言った。
救急隊は慣れているから誘導など不要だとも。

だが、私は見た。
あの人が生きていた頃、何度も見た姿そのままだった。

責任感の塊のような人だった。
自分の家に来た救急車を放っておくはずがない。

その夜、私は祖母に報告しようとして、部屋の前で立ち尽くした。
祖母はもういなかった。

暗い部屋に、何も残っていなかった。

それ以来、私は考えないようにしている。
もし本当に、行動が場所に残るのなら。

もしそれが、人の意思とは無関係に現れるのなら。

自分は、どんな姿を、どこに残しているのか。

それを考え始めると、夜、家の中を歩く音が、自分のものかどうか、わからなくなる。

[出典:怖い話&不思議な話の投稿掲示板/投稿者「凪 ◆gRc5iHyE」 2018/11/26]

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