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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

向きを失わないもの nc+

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高校生の頃、夜中に街を歩き回るのが趣味だった。

理由は特にない。昼間の街は人の意図や都合で満ちているが、深夜二時を過ぎると、街は急に本音だけを残す。信号は誰のためでもなく点滅し、住宅街は呼吸のような間隔で物音を吐き出す。その静けさが好きだった。

当時住んでいたのは郊外の住宅街で、夜中に歩いていても警察に声をかけられることはほとんどなかった。駅前から少し離れると、コンビニの明かりもまばらで、街灯の下だけが切り取られた舞台のように浮かび上がる。俺は決まったルートを持たず、その日の気分で道を選び、気づけば一時間以上歩いていることも珍しくなかった。

その公園は、ルートの途中にあった。
小さな児童公園で、ブランコと砂場と、古い滑り台がひとつあるだけだ。昼間は子どもと母親で賑わうが、夜は完全に放置される。街灯は一本だけで、滑り台の踊り場が中途半端に照らされていた。

最初にそれを見たのは、十月の終わり頃だったと思う。
いつものように夜の散歩に出かけ、公園の前を通りかかった時、滑り台の踊り場の上に男が立っているのが見えた。グレーのスーツを着た、サラリーマン風の男だった。

男はこちらに背を向け、斜め後ろを向く形で立っていた。顔は見えない。
最初は少し驚いたが、深夜に酔いつぶれた会社員を見かけたことは何度もある。ベンチで寝ているよりは、滑り台の上でぼんやり立っている方が、むしろ奇妙さは薄かった。そう思って、そのまま歩き続けた。

公園を抜け、住宅街をぐるりと回り、三十分ほどしてから帰路についた。
帰りは、行きとは反対側の道を通る。公園の裏手に回り込み、フェンス越しに中を横切る形になる。

再び公園の前に差しかかった時、俺は足を止めた。
さっきの男が、まだ滑り台の上に立っていた。

同じ場所。同じ姿勢。
斜め後ろを向き、身じろぎ一つしていない。

行きに見てから、少なくとも四十分は経っている。
その間、男が動かなかったとは考えにくい。さすがに妙だと思い、俺はじっと男を見てしまった。距離はあるが、姿勢が異様に整っているのが分かる。立っているというより、置かれているように見えた。

背中に冷たいものが流れた。
早く帰ろう。そう思い、公園の脇を通り過ぎた。

数歩進んだところで、違和感がはっきりした。
俺は帰り道、行きとは反対方向から公園に近づいている。それなのに、男は行きと同じように斜め後ろを向いて立っている。

つまり、俺がどの方向から見ても、男は常にこちらに背を向けた位置関係になっている。

全身の毛穴が一斉に開く感覚があった。
振り向かなければいい。そう頭では分かっていた。ここから走って逃げればいい。それだけのことだ。だが、体が言うことをきかない。

俺は、公園の方を振り向いてしまった。

男は、滑り台の上で斜め後ろを向いて立っていた。
先ほどと、まったく同じ角度で。

その瞬間、これは見てはいけないものだと直感した。
男がこちらを向いたら、何かが終わる。何が終わるのかは分からない。ただ、終わるという確信だけがあった。

俺は走った。
靴音がやけに大きく響き、夜の住宅街が一斉にこちらを見た気がした。振り向く勇気はなかった。振り向いて、もし男がこちらを見ていたら、その後どうなるのか、想像すること自体が恐ろしかった。

家に着くまで、息が切れるほど走った。
玄関を閉め、鍵をかけ、それでもしばらくは動けなかった。

あれが何だったのか、今でも分からない。
幽霊だったのかもしれないし、ただの異常な人間だったのかもしれない。確認する術はない。

ただ一つ確かなのは、それ以来、夜中の散歩であの公園の近くを通ることは二度となかったということだ。
遠回りになっても、道を変えた。理由を聞かれても、説明はできない。

今でも、深夜に街を歩いていると、不意に「背を向けた誰か」を探してしまう。
そして気づく。
見えていないだけで、あの位置関係は、今もどこかで保たれているのではないかと。

[出典:396 :公園:2018/10/17(水) 23:00:34.45 ID:FaRzBC5V0.net]

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