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短編 r+ 家系にまつわる怖い話

まだ返すな rw+4,612-0217

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これは、ある地方の古い家系に生まれた友人の話だ。

彼は昔から「憑かれやすい体質」だと言われてきた。祖母は小さな木札を肌身離さず持たせ、「失さしたら終わりだ」とだけ繰り返していた。何が終わるのかは、誰も説明しなかった。

十四歳の誕生日の夜、家族がそろって彼に出生の話をした。

彼がまだ母の胎内にいた頃、祝いの席の最中に異変が起きた。祖母が母を仏壇のある奥の間で休ませていたとき、突然、祖母が蒼白な顔で飛び出してきたという。

「ヒロ子さんが……おかしい」

襖の隙間から現れた母は、焦点の合わない目で部屋を見渡し、掠れた老人の声で名を呼んだ。

「敏行ぃ……」

祖父はその声を聞いた瞬間、膝を崩した。

「カツゴロウ爺か」

母の喉から出ているのは、すでに亡くなっている曾祖父・勝五郎の声だった。だがその声は、懐かしさよりも苛立ちを含んでいたという。

勝五郎は長くは語らなかった。ただ一族のことを口にし、「その子は離すな」と繰り返した。守れとも、救えとも言わない。ただ、離すなと。

最後に、意味の分からぬ方言を残した。

「がんぐらぎぃなかん きぃふごあるげえ、ごっだらにもたせぇ」

祖父はそれを「岩倉の中に木の札がある。生まれる子に持たせろ」という意味だと解した。数日後、使われていない蔵を探し、埃をかぶった神棚から油紙に包まれた木片を見つけた。

その木片には、まだ決めていなかったはずの彼の名が刻まれていた。

両親は別の名を考えていたが、それを捨てた。木札の名をそのまま与えた。理由は誰も説明しなかった。

彼は生まれてから何度も死にかけた。腸閉塞、沼での溺水、階段からの転落。だが、そのどれもが「あと一歩」のところで止まった。

祖母はそのたびに木札を握り、「ほれ、まだだ」と呟いた。

彼自身は、守られている感覚を持ったことがないと言う。むしろ逆だという。事故の直前、いつも同じ感覚があった。背中を押されるような、あるいは踏みとどまらされるような、どちらともつかない力だ。

祖父の葬儀のあと、彼は恋人にこの話を打ち明けた。冗談半分のつもりだった。

彼女は黙って聞き、しばらくして言った。

「この前、夢にお爺さんが出てきたよ」

痩せた老人が枕元に立ち、彼女を見下ろしていたという。そして一言だけ。

「まだ返すな」

何を、と彼女が尋ねる前に、夢は終わった。

彼はそれ以来、木札を外せなくなった。刻まれた文字はかすれ、指でなぞると木屑が落ちる。それでも手放さない。

最近になって、彼は妙なことに気づいた。

木札を外して机に置くと、決まって誰かがそれを元の場所に戻している。家には彼しかいないはずの日でもだ。

祖母の言葉が今になって耳に蘇る。

「失さしたら終わりだ」

守りが終わるのか、それとも。

彼は一度だけ、木札を川に投げようとしたことがある。指を離す直前、背後で声がした。

「敏行ぃ」

振り返ったが、誰もいなかった。

気づくと、木札はまだ手の中にあった。

彼は笑って言った。

「俺は憑かれやすい体質なんだよ」

その言葉が、言い訳なのか事実なのか、もう誰にも分からない。

(了)

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