高校二年生の頃から、姉は急に食べる量が増えた。
それまでも食欲はあったが、間食が増え、一度の食事で二人前以上を平然と平らげるようになった。運動もしてはいたが、摂取量のほうが明らかに上回っていて、三年生の夏には体型がはっきり変わっていた。
それが過食だと最初に気づいたのは、母でも父でもなく、私だった。だが母は姉にほとんど関心を示さず、その変化を見て見ぬふりをしていた。姉はもともと大人しく、家で自分の話をすることは少ない。成績は平凡、友人も少数だが関係は良好で、表面上は何も問題のない高校生に見えた。
夏のある日、さすがに異常だと思い、私は言った。「お姉ちゃん、ちょっと食べすぎじゃない」
姉は笑って「大丈夫だよ」と言っただけだった。
その時、母が突然怒鳴った。「家を食い潰す気か。そんな食い方を続けるなら出ていけ」
姉は何も言わなかった。その日を境に、姉の食事量はぴたりと普通に戻った。
一週間経っても、二週間経っても変わらなかった。私は安堵と同時に、どこか拍子抜けしていた。簡単に収まるものなのかと、どこかで思ってしまった。
八月の深夜一時過ぎ。喉が渇いてリビングへ降りた時、キッチンから微かな音がした。電気をつけずに近づくと、冷蔵庫の前に姉が座り込んでいた。
扉は半開きで、姉は暗闇の中で何かを口に運び続けていた。
電気を点けた瞬間、床に散乱した食品が見えた。生肉、鶏肉、生野菜、調味料、乾物。足元には吐瀉物が広がっていた。
私は叫んだ。「何してるの」
姉は振り向きもせず、「大丈夫」と言った。声の調子はいつもと同じだった。
両親が駆けつけ、姉は病院に運ばれた。胃洗浄が必要な状態だったと後で聞いた。
それから数か月後、冬の夜だった。姉は自分で命を絶った。
遺書はなかった。
葬儀の後、家族で姉の部屋を片付けていると、押入れの奥から三冊のノートが出てきた。赤いボールペンで、びっしりと文字が埋め尽くされていた。食べたものの記録、誰かへの不満、自分自身への罵倒。ページをめくるたび、言葉は荒れていった。
最後のページに、絵が描いてあった。
笑っている姉が、首を吊っている絵だった。
その横に、短い言葉が書かれていた。
「ありがとう」
誰に向けた言葉なのかは、どこにも書かれていなかった。
母は声を上げて泣き、父は何も言わず壁を叩いていた。私はそのノートを閉じた。
姉が何を終わらせたのか。
何に礼を言ったのか。
今でも、それだけが分からないままだ。
[出典:119 :本当にあった怖い名無し:2012/03/04(日) 02:24:05.26 ID:zO6uNh/P0]