短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

自慢のノイズ【ゆっくり朗読】

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ある友人Aとの話。

287 :本当にあった怖い名無し:2007/10/18(木) 21:02:01 ID:+vVmpF1S0

お互い別のバンドやってて、ある日のライブの打ち上げで仲良くなった。
そいつ、音楽さえあればなんにもいらないっていうような奴でさ。
男の俺から見てもルックス悪くないし、金だってある程度持ってるし、
ギター(Aはギタリストね)ハンパじゃなくうまい。

俺と違ってモテないわけないんだけど、奴曰く「女に裂いてる時間があったらお前もギターの練習せんかい」て。
よく言えば『ストイック』、世間一般からみれば普通は『変わり者』。そんな奴なんだ。
Aのバンドとうちらのバンドは、まぁ住んでる地域も近いことから、練習では同じスタジオ使ってるんだ。
で、タイミングがあえば、同じ日の同じ時間帯にスタジオで出くわすこともあるんだけど、
バンドぐるみで仲がいいから、あえば総勢9人(うち5人、Aのバンドが4人)でよく遊んだりしてた。

ある日、スタジオであった時、俺たちはバンド練習だけど、Aは個人練習できてた日があった。
終わりの時間も近いし、俺とAは帰る方向がいっしょなので、車に乗せてくことにしたのよ。
その時、Aがおかしなことを言い始めた。
普通、ギターの音って、どんな達人が弾いてもギターの音するよね?
曰く、Aにしか出せない音が出るようになったんだって。Aは「オリジナリティの確立」とかいって騒いでたっけ。

俺も異音(w)を出すのは得意だし、結構研究とかもしてたからすごい興味わいてさ。
「どんな音?」って聞いたら、Aはもったいぶって、結局その日は教えてくれなかった。

それから数日後、Aから電話があったんだ。
そこでまず、あれ?と思った。

A、いまどきケータイ持ってなかったから、Aとは番号交換してないんだよ。
お互い用があるときは、お互いのバンドメンバーを通じて、というのが通例だった。
まぁ俺の番号なんて、知り合い経由でいくらでも入手できるけど。
ただ、お知らせ画面(?)が、なんか『通知不可能』。『非通知』ならまだしも。
(まぁビビりな俺は、非通知拒否にしてるんだけど)

出るまで気付かなかったんだけど、まぁ出たらAだった、と。
すごい興奮した口調でさ、『さらにすごい音が出るようになった。一度聞かせてやりたい』って。

話聞く限り、もう正規のギターの練習というより、いかにしてノイズを出すかに執着しちゃってんの。
実際、その後何度か見せてもらったAのギターには、
カッターで削ったような跡がついてたり、弦も2本くらいしか張ってなかったり。
聞くと、

「カッターは、ギターの刃が突き刺さるノイズを出したかった。
弦は、この2本だけ張ってあるのが一番ノイズの出がいい」んだそうだ。
そういう割には、一度もその『自慢のノイズ』を聞かせてはくれなかったのがひっかかったけどw

もちろんそんなギタリスト、バンドで戦力になるわけもなく、程なくしてクビにされた。
さっきも書いたけど、仲間全体仲がいいので、話はAのバンドのリーダーから聞いたが、理由なんて尋ねるまでも無い。
早急に切り上げてしまった。
今考えると、これがそもそもの間違いなのだが。

そこらへんから、Aの姿を見る機会がグンと減った。
変わりに、電話がくる回数がハンパじゃなくなった。1日20件とかザラだった。
今は仕事も辞めて、暗い部屋で一人でギターノイズの研究をしているらしい。

さすがに異常だと思って、Aの家(アパートでひとり暮らし)に行ったが、人の気配がない。ひっそりとしている。
ドアにも鍵がかかり、郵便物も溜まっている。
まさか夜逃げでもしたんじゃねーだろうな…なんて思いながら、Aのアパートからの帰り道、ケータイが鳴った。
Aからだった。

俺「おい!お前どこにいんだよ!家にいるんじゃねーのかよ!」

A『いるよ…ずっと…』

俺「ウソつけ!俺たち今、お前んち行ってたんだぞ?誰もいねーじゃん!」

そこまでいうと、Aがいきなり動揺しだした。
勝手に来ちゃまずかったかと思ったが、どうもそうではない。
『そんな…』と、『ウソだ…』の台詞を、震えながらずっと繰り返していた。

すると突然、狂ったように騒ぎ出した。

俺は必死でなだめた。

俺「おい、おちつけよ!どうしたんだよ!!」

しばらくそんなことやってると急に、本当に急に、Aがものすごい小さな声で、おそらくこういった。

A『俺は…帰ってなかったんだ…』

ブツッと電話が切れる。俺たちちんぷんかんぷん。

そしてその日の夜、家で晩飯くってるころ、また電話が鳴る。今度はうちのボーカル(B)からだ。

B『おい、今すぐ○○病院これるか!?Aが目を覚ましたぞ!』

俺「???なに?それ?」

B『なにってお前…知ってたんだろ?アイツ事故って入院してたの!』

俺「はぁ!?なんじゃそら!!」

そう、俺はAがバンドをクビにされたとき、Aが狂ったからクビにしたんだと思ってた。
だからあえて事情も聞かなかったし、向こうも察して話さなかった。
でも、そこに違いがでてたんだ。

本当の話はこうだ。

はじめ、俺がAをスタジオから送っていった日から2日後、アイツは事故にあった。
さすがに事故の詳細まではわからないが、それから今までずっと意識がなかったんだそうだ。
バンドもヘルプのギターを入れてただけで、Aが復活したら元のラインナップに戻るそうだ。

ちょっとまて。じゃあ、あの電話…

と、ここで終われば、ただのつまらんオカルト話で終わるんだが、微妙なオチがつく。

Aと面会できるようになって数日たって、俺はAの病室を訪ねた。

そこには、前と変わらないAがいた。
両足骨折の重症なのに、両手はほぼ無傷。
担いでたギターもとっさにかばって、ギリギリで壊れてなかったらしい。
「ギタリストの鏡だなwお前ギターさえもってなければ、もっと怪我軽かったんじゃね~の?」
などと軽い談笑しながら、恐る恐る聞いてみることにした。

Aは言った。「俺もそれ、知ってる」と。

A「俺、意識なかったからよくわかんねーけど、なんかずっと夢見てた気がするんだ。
夢っていうのかわからないけどさ。
その夢の中でノイズ研究、確かにしてたと思う。
でも俺自信は、大事なギターに傷付けてる夢の中の俺に腹立ててるんだよ。
『こいつが俺でさえなけりゃぶっ殺してやる』とか。
でも、一日で何回か違う行動をするんだ。
風呂とか便所とか、そういうのを除けば、ほかに俺がする作業はひとつだけなんだ。
なぜか手元にあるケータイで、お前に電話するんだよ。
夢ってなんかわけわかんねーじゃん?俺がギター壊すなんて夢でしか考えらんねーしw
ただ、お前の声っていうか、話だけはやたらリアルっていうか。

で、ある日、お前の声で『おい!お前どこにいんだよ!家にいるんじゃねーのかよ!』って聞こえてきて、
そうだ、帰らなきゃと思ったら、目が覚めてそこは病院だったとw
まぁお前のおかげで帰ってこれたよ。ありがとなww」
そういって微笑んだ。

ところが、俺はそれどころではない。

なんで現実世界の俺と夢の中のAがシンクロしてるんだ?
わけがわからない。ひょっとして俺も夢の中にいるとか…
はっと気付いて、ケータイ取り出した。

だいたいこういう話で、あったはずのAからの『通知不可能』の着信が消え、
「俺に友人を連れ戻す力をくれたに違いない…」とか、
感動的なオチが待ってるに違いないと、他力本願な確信をして。
願いむなしく、着信はしっかりと履歴に残っていた。『通知不可能』がものすごい数。
こうなってくると、もう俺はわからない。

もちろん、仲間が復活したんだから、結果オーライではあるのだが、
夢の中のAと、現実に生きる俺が、どうしてシンクロしてしまったのか。

変な話、俺はその間もちろんちゃんとバイトしてたのだから、勤務記録にも残ってるし、
そもそもシンクロしてたと思われる時期に、うちのバンドは一回ライブだってやっている。
客だっていたし、物販もちょっとだけど売れた。
バンドのホームページの掲示板にだって、その日についての書き込みがされてる。
そして、その日のライブ後の打ち上げ時に、Aから電話を取っている。
当時、クビになったと思い込んでいた俺は、
Aのバンドメンバーも参加していた打ち上げの席で、
Aからの電話をとっていいものかどうか悩んだのを鮮明に覚えている。

まだある。100歩譲って、なんらか(このなんらかが問題なのだがw)の理由でシンクロしてしまった、としよう。
納得いかないが、無理やり納得したとするよ。
でもそれにしても、アイツが病院で寝ている間、俺何度かアイツ見てる。スタジオで見かけてる。
ギターボロボロにして、コイツらしくないと思ったの覚えてる。

ただそっちに関しては、A本人は「知らない」。
まわりは、「俺も見た」という人と、「知らない」という人に別れる。
顕著な例では、うちのバンドのメンバー。
俺は「見た」、ボーカルとドラムは「言われてみればなんとなくいたような…」、
ベースとギターは「そんなわけない」と、3つに割れている。
スタジオのスタッフさんも、見た人と知らない人がいる。
その日勤務してた人にわざわざ聞いてみても、回答は一緒だ。

現在、Aは完全に復活して、また『同じ地域で俺よりうまいギタリスト』の地位に立ち、元気にやっている。
俺もいつまでも負けてられないので、がんばっている。
完全に元通りに戻ったのだ。Aが事故を起す前に。
ひとつだけ、どうしても解けない不可解な謎が残ったことを除いては…

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