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行けそうだった場所 rcw+2,000-0122

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もう十年以上前のことになる。

小学生のころ、私は山を切り開いて作られた新興住宅地に住んでいた。バブル期に造成されたらしいその一帯は、私が物心ついた頃にはすでに勢いを失っていて、住人のいない家も珍しくなかった。それでも、同じ学年や近い年齢の子どもは何人か残っていて、放課後や休日になると自然と集まって遊んでいた。

私たちの遊び場はいくつもあったが、今でも強く記憶に残っているのが、皆が「あの家」と呼んでいた洋館だ。

住宅地を貫く大通りを見下ろすような位置に建っていて、遠目には二階建てに見えるのに、裏手の斜面側から見ると三階建てだと分かる、少し歪んだ造りをしていた。他にも空き家はあったが、あの家だけは明らかに違っていた。放置された建物というより、そこだけ空気が変わっているような感じがあった。

外壁はツタに覆われ、窓のほとんどには鎧戸が閉められていた。唯一、三階の右端の窓だけが例外だった。破れかけた白いレースのカーテンが垂れ下がり、その奥に、フランス人形が置かれていた。

薄汚れた白いドレスを着たその人形は、窓辺に腰掛けるように置かれ、こちらに背を向けていた。顔は見えなかったはずなのに、なぜか「見られている」という感覚だけがあった。

不思議なことに、私はその人形がどうしても欲しかった。

それまで人形に興味を持ったことなど一度もない。ましてや、廃墟に放置された、汚れた人形だ。それなのに、あの人形だけは別だった。怖いという感情よりも先に、胸の奥が静かに引かれる感じがあった。理由は分からない。ただ、見ていると落ち着くような、昔から知っていたものを思い出しかけているような、妙な感覚があった。

その気持ちを誰かに話したことはない。それでも、「あの家に行こう」という話になると、自然と三階の窓が見える位置まで行っていた。他の連中も同じだったと思う。誰も口にしないが、皆があの窓を意識していた。

正面玄関には後付けのパイプシャッターが取り付けられていた。近所の大人が、子どもが入り込まないようにと設置したらしい。だが、私たちは裏手を知っていた。斜面を少し下った先に、身をかがめれば通れる程度の小さな出入口があり、そこから中に入ることができた。

その裏口を抜けると、建物の内部にあるバルコニーのような場所に出る。手すりに囲まれた細長い空間で、下を覗くと、コンクリートの床と何本かの木製の柱が見えた。その奥には、二階へ続く階段も見えていた。

ただ、そこへ降りる方法がなかった。

はしごも階段も見当たらない。手すりを越えて飛び降りる以外に、下へ行く手段はなさそうだった。高さはそれなりにあり、落ちればただでは済まないのは誰の目にも明らかだった。

「飛べば行けるんじゃないか」

冗談めかして言うことはあったが、誰も本気で飛ぼうとはしなかった。下のコンクリートを見下ろしていると、胸の奥がざわつき、足がすくむ。それでも、不思議と「一人だったら飛んでいたかもしれない」と思う瞬間があった。その感覚が怖くて、私たちは決して一人ではあの家に行かなかった。

結局、そのバルコニーから先に進むことはできなかった。あの場所が何のために作られたのか、今でも分からない。ただ、行けそうで行けないという感覚だけが、はっきり残っている。

小学校を卒業するタイミングで、私は別の市へ引っ越した。それきり、あの家のことを考えることも少なくなった。

高校生の夏、地元で心霊スポットの話題が出たとき、ふとあの家を思い出した。話の流れで久しぶりに訪れてみることにし、スマートフォンで外観の写真を撮った。ツタに覆われた姿は昔のままで、懐かしさすら感じた。そのときも、なぜか三階の窓を探していた。

大学に進学してから、その写真を友人に見せようとしたが、どこにも見当たらなかった。機種変更のせいだろうと思い、深く考えなかった。

その後、帰省した際に、何気なくあの場所を見に行った。

家はなかった。

取り壊されたのだと思い、近所の人に尋ねてみたが、首を傾げられるばかりだった。そんな洋館は知らないと言う。一緒に遊んでいたはずの友人たちに聞いても、覚えていないと言われた。

住宅地の真ん中にあった、あれほど目立つ建物が、誰の記憶にも残っていない。その事実だけが、妙に現実味を欠いていた。

今でも、あの家のことを考えると、三階の窓に背を向けて座る人形の姿が浮かぶ。もし今、あの場所に立てたなら、あのバルコニーから下へ降りる道が見える気がしている。大人になった今なら、きっと行ける。そんな確信に近い感覚だけが残っている。

だから、似たようなフランス人形を探したこともある。しかし、どれも違う。そもそも、あの人形がどんな顔をしていたのかすら、もうはっきり思い出せない。

それでも、あの家を思い出すたび、行かなかったことではなく、行こうとした自分の感覚だけが、静かに蘇ってくる。

[出典:617 : 本当にあった怖い名無し:2022/05/02(月) 12:40:35.85 ID/Y0.net]

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