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割れなければ守れる rw+4,496-0119

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これは、ある警察関係者から聞いた話だ。

若い女性の部屋で、常識では説明できない遺体が発見された。男一人分の遺体が、粉砕され、分割され、無数の卵殻の中に収められていたという。

発見現場は英子という女性の自室だった。被害者は一樹という男で、彼女の幼馴染だった。

英子と一樹は、生まれた家も育った町も近く、両家の母親同士も旧知の仲だった。気づけば三人で遊ぶようになり、そこには坂木という同級生も混じっていた。小学校から高校まで、三人は特別に仲が良いわけでもなく、かといって疎遠になることもない、よくある距離感を保っていた。

高校の終わり頃、坂木が英子に告白し、二人は付き合い始めた。一樹はそのことを特別な出来事だとは思っていなかった。三人の関係は変わらず続くものだと、疑いもせずにいた。

だが大学に進学して半年ほど経った頃、坂木は突然死んだ。英子とのデート中、ダムに転落したという。目撃者はいなかった。事故として処理され、事件性はないとされた。

それ以降、英子は壊れた。

会話が成立しなくなり、食事も一人では取れず、外出もしなくなった。大学は中退し、母親が身の回りの世話をする生活が始まった。一樹は時折様子を見に行ったが、部屋の奥から返ってくるのは、意味をなさない言葉と、天井を見つめる視線だけだった。

その頃から、英子は卵細工を始めた。

卵の殻に針で小さな穴を開け、中身を抜く。水で何度も洗い、内側を乾かす。殻の内側に薄い布を貼り、糸を通して天井から吊るす。ひとつひとつの卵は軽く、色とりどりに染められていた。

日を追うごとに数は増え、やがて部屋の天井は卵で埋め尽くされた。風がないのに、卵同士が触れ合い、かすかな音を立てることがあったと母親は言う。

母親が異変に気づいたのは、英子の腹部だった。衣服の上からでも分かるほど膨らみがあり、問いただしても英子は答えない。検査の結果、妊娠している可能性が高いと告げられ、母親は混乱した。

相談は一樹の母親に持ち込まれ、やがて一樹本人にも知らされることになる。

一樹は黙って話を聞き、「自分が責任を取る」とだけ言って家を出た。その日の夜、彼は英子の家に泊まった。

翌朝、家の中に異臭が立ち込めていることに母親が気づいた。腐敗臭とも、生臭さとも違う、鉄のような匂いだった。英子の部屋から漂ってくる。

床には卵殻が散乱していた。踏まないように避けながら進むうち、母親は殻のひとつが異様に重いことに気づいた。拾い上げた瞬間、殻の中で何かがずっしりと動いた。

割れた殻の内側には、赤黒いものが詰まっていた。

悲鳴を上げた母親はその場に崩れ落ち、通報で駆けつけた警察が部屋を調べた結果、天井から吊るされた卵、床に散らばった卵、そのほとんどから人間の組織が見つかった。DNA鑑定により、それが一樹のものであることが判明する。

遺体は切断されていなかった。刃物の痕跡は一切なく、骨は割れ、肉は引き裂かれたような状態だった。血痕はほとんど見当たらず、争った形跡もない。

卵殻に開けられた穴より明らかに大きな骨片が、いくつも中から出てきた。どうやって入れたのか、誰も説明できなかった。

英子は発見時、部屋の中央に座り、天井を見上げていた。警察が声をかけても反応はなく、卵が揺れるたびに、かすかに頷くような仕草を繰り返していたという。

取り調べでも、英子は何も語らなかった。ただ一度だけ、ぽつりとこう言った。

「割れなければ、守れる」

事件はそれ以上進展しなかった。英子は精神鑑定ののち、医療施設へ移された。裁判は開かれず、記録だけが残った。

警察関係者が最後に教えてくれたのは、撤去されたはずの卵細工の話だった。部屋を片づけた後、何度数えても、卵の数が合わなかったという。

一つ足りないのか、余っているのか。それすら分からなかった。ただ、天井を見上げると、何も吊るされていないはずの場所で、影だけが揺れていたそうだ。

(了)

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