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【伝聞】牛の首【ゆっくり朗読】13k

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「牛の首」というタイトルの話があると聞き、昔、奈良のひいじいちゃんから聞いた話を思い出しました。

752 : ◆sAOE2TjSXU :2003/07/29 22:42

戦前のある村での話だそうです。

その村には森と川を挟んだところに隣村がありました。

仮に「ある村」を矢尻村、「隣村」を馬坂村としておきます。

馬坂村はいわゆる部落差別を受けていた村で、矢尻村の人間は馬坂村を異常に忌み嫌っていました。

ある朝、矢尻村で事件が起きました。

村の牛が一頭死体で発見されたのですが、その牛の死体がなんとも奇妙なもので、頭が切断され消えていたのです。

その切り口はズタズタで、しかし獣に食いちぎられたという感じでもなく、切れ味の悪い刃物で何度も何度も切りつけて引きちぎられたといった感じでした。

気味が悪いということでその牛の死体はすぐに焼かれました。

しかし、首のない牛の死体はその一頭では終わりませんでした。

その後次々と村の牛が殺され、その死体はどれも頭がなかったのです。

普段から馬坂村に不信感を抱いていた矢尻村の人々は、その奇妙な牛殺しを

「馬坂村のやつらの仕業に違いない」とウワサし、馬坂村を責めたてました。

しかし同じ頃、馬坂村でも事件が起きていました。

村の若い女が次々と行方不明になっていたのです。

いつも矢尻村の人々から酷い嫌がらせを受けていた馬坂村の人々は、この謎の神隠しも

「矢尻村のやつらがさらっていったのに違いない」

とウワサし、矢尻村を憎みました。

そうしてお互いに村で起きた事件を相手の村のせいにして、ふたつの村はそれまで以上に疑い合い、にらみ合い、憎しみ合いました。

しかし、そのふたつの事件は実はひとつだったのです。

ある晩、村境の川にかかった橋で馬坂村の村人たちが見張りをしていました。

こんな事件があったので四人づつ交代で見張りをつけることにしたのです。

夜も更けてきた頃、矢尻村の方から誰かがふらふらと歩いてきます。

見張りの男たちは闇に目を凝らしました。そして橋の向こう側まで来たその姿を見て腰を抜かしました。

それは全裸の男でした。

その男は興奮した様子で下半身を昂らせています。

しかしなにより驚いたのは、その男の頭は人間のそれではなく牛の頭だったのです。

牛頭の男は見張りに気付き、森の中へ逃げ込みました。

牛頭の男は矢尻村でも牛の番をしていた村人に目撃されていました。

その牛頭の男こそ、ふたつの事件の犯人に違いないと、矢尻村と馬坂村の人々は牛頭の男を狩り出す為、森を探索しました。

結局牛頭の男は捕まりませんでした……

いえ、実際には捕まっていました。

しかし、男を捕まえた矢尻村の人々は彼を隠し、みんなで口を揃えて

「そんな男は存在しなかった」と言い出したのです。

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矢尻村の人々のその奇妙な行動には理由がありました。

矢尻村の人々は牛頭の男を捕まえました。

その男は実際に牛頭なのではなく、牛の頭の生皮を被った男でした。

矢尻村の人々は男の頭から牛の皮を脱がせ、その男の顔を見て驚きました。

その男は矢尻村の権力者の息子だったのです。

この男は生まれつき知的障碍がありました。

歳はもう三十歳近いのですが毎日村をふらふらしているだけの男でした。

村の権力者である父親がやってきて男を問い詰めましたが、

「さんこにしいな。ほたえるな。わえおとろしい。あたまあらうのおとろしい。いね。いね」

と、ワケの分からないことばかり言って要領を得ません。

そこで男がよく遊んでいた父親の所有している山を調べてみると、女の死体と牛の首がいくつも見つかりました。

異常なことに女の死体の首は切り取られ、そこに牛の首がくっついていました。

男は馬坂村から女をさらい、女の首を切り取って牛の首とすげ替え、牛頭の女の死体と交わっていたのです。

権力者である父親は息子がやったことが外に漏れるのを恐れ、山で見つかった死体を燃やし、矢尻村の村人に口封じをし、村に駐在する警官にも金を渡して黙らせました。

そして息子を家の土蔵に閉じ込め、その存在を世間から消し去ったのです。

しかし、村の女たちが行方不明のままで馬坂村の人々は黙っていません。

特にあの夜実際に牛頭の男を見た見張りの四人は

「牛頭の男など存在しなかった」と言われては納得いきません。

村人みんなで相談して、その四人は警察に抗議に行くことにしました。

次の日、川の橋に四人の生首と四頭の牛の生首が並べられました。

矢尻村の人々は真実が暴露されるのを恐れ、馬坂村を出た四人を捕らえ、真実を知っているにも関わらず馬坂村の四人に全ての罪をかぶせ、私刑(リンチ)し、見せしめに四人の首をはね、さらし首にしたのです。

一緒に牛の生首を並べたのには、「四人が牛殺しの犯人である」という意味(もちろんデマカセではあるが)と「真実を口外すれば同じ目にあうぞ」という脅しの意味がありました。

この見せしめの効果は大きく、馬坂村の人々はもちろん矢尻村の人々も「この出来事を人に話せば殺される」と恐れ、あまりの恐怖にこの事件については誰も一言も話そうとはしなくなりました。

ふたつの村の間で起きたこの出来事は全て、村人たちの記憶の奥深くに隠され故意に忘れさられ、土蔵に閉じ込められた男と一緒にその存在自体を無にされたのです。

(了)

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