これは、ある日ネット掲示板で見つけた奇妙な投稿を、ほぼ原文のまま書き起こしたものだ。
昔から夢をよく覚えている方だった。
内容も感触もやけに鮮明で、目が覚めたあとも、しばらく現実と区別がつかないことがある。
ただ、これまで一度も「夢だ」とはっきり確信できなかった。
いつも目覚めたあとで、ああ夢だったのかと理解するだけだった。
その夜も、気がつくと薄暗い無人駅に立っていた。
照明は点いているのに、空気が沈んでいる。音がない。風もない。
夢にしては静かすぎると思ったが、だからといって現実だとも思えなかった。
突然、天井のスピーカーが軋むような音を立てた。
「まもなく電車が参ります。その電車に乗ると、あなたは恐ろしい目に遭いますよ」
妙に具体的な言い回しが引っかかったが、身体は勝手に動いていた。
ホームに入ってきたのは、遊園地のアトラクションのような小さな列車だった。窓はなく、外が見えない。
すでに数人が座っていて、誰もこちらを見なかった。顔色が悪いというより、色そのものが薄い。
後ろから三番目の席に座った瞬間、ドアが閉まった。
発車すると、すぐに紫がかったトンネルに入った。
壁が近い。息苦しい。
それでも、ここで初めて「これは夢かもしれない」と考えた。そう思えたことに、なぜか少し安心した。
次のアナウンスが流れるまでは。
「次は活けづくり~活けづくりです」
意味を考える前に、悲鳴が上がった。
振り返ると、最後尾の男が小人たちに取り囲まれていた。
刃物が光り、皮膚が裂け、内臓が引きずり出される。
血の臭いが鼻に刺さり、床を伝って靴底に触れた。
夢なら、ここで目が覚めるはずだった。
だが覚めない。視界も感覚も途切れない。
「次は挽肉~挽肉です」
機械の駆動音が近づいてくる。
小人の一人が、軽い重さで膝に乗った。その手の感触が、妙に体温を持っていた。
耐えきれず、目を閉じた。
次に目を開けたとき、自室の天井があった。
時計を見ると、数時間しか経っていない。
夢だったのだと理解するまで、かなり時間がかかった。
それから四年後、同じ夢を見た。
今回は、すでに列車の中だった。
後ろから、あの悲鳴が聞こえている最中から始まった。
逃げようとして席を立つと、足元が動かない。
ドアに手をかけた瞬間、スピーカーが鳴った。
「また逃げるんですか~」
声は、前よりも近かった。
「次に来た時は、最後ですよ~」
目覚めたあとも、その声だけが耳に残っていた。
今も、夜中に駅のアナウンスを聞くと、続きを待たれている気がする。
―――――
投稿はここで終わっている。
書き込み主がその後どうなったのかは、誰も知らない。
(了)
[9 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/02(水) 07:03]